流麗な文字の篆(てん)書で描かれた漢詩の掛軸を以前、知人からいただいた。
わが家の小さな床の間にかけ、毎日飽きずに眺めている。
もとより中身を理解する身でないので調べてみた。
この七言絶句の題は『華清宮(かせいきゅう)』とあり、王建の作と
軸には記されているが、本来は『杜常』の作とある。
『杜常』は河南の人で土木技術者として1050年代に活躍し79歳で没。
パソコンで似たような書体で文字を挿入し作成してみた。
そのうち筆を使い、篆書ようで書いてみたいなぁ。
《読み》
行(い)き盡(つ)くす 江南(こうなん)数十程(すうじってい)。
暁風(ぎょうふう)残月(ざんげつ)華清(かせい)に入(い)る。
朝元閣上(ちょうげんかくじょう)西風(せいふう)急(きゅう)なり。
都(すべ)て長楊(ちょうよう)に入(い)り 雨聲(うせい)と作(な)る。
《語釈》
華清宮 驪山の麓にある温泉宮殿。唐の太宗のとき「温泉宮」として造られ,
唐の玄宗により規模が拡大さ,「温泉宮」から「華清宮」に改称された。
数十程 長き道程をいう。
暁風 明け方に吹く風。
残月 明け方の月。
朝元閣 華清宮にある宮殿の名称。
俗称を老君殿といい,老子が降りた聖地とされる。
驪山の西繍の峰の第三峰の山頂に位置する。
西風 西から吹いてくる風で秋風のこと。
都 すべてと訓み,全部の意。
長楊 しだれ柳。
雨聲 雨音。
《意味》
江南地方で数十日の旅路を行き尽くし
夜明けの風と沈み行く月とともに華清宮にたどり着く
長元閣には冷たい西風が忙しく
枝垂れる柳の茂みに吹き込んで雨音となる
ところで、過日の読売の編集手帳に盛唐の詩人「王維」七言絶句
『元二の安西に使いするを送る』記事をみつけた。
進学や就職で親元を離れたり、転勤等で別の地に移ったり
定年退職で会社を去って行くひとが多い時期に
漢学者の石川氏が漢詩講座で紹介した句に触れている
秦の都があった渭城(現在の西安市近郊にある咸陽)を舞台にした
「送別の詩の代表作」で、安西へ旅立つ元二を送った詩だそうである。
渭城朝雨浥軽塵 (いじょうのちょうう けいじんをうるおす)
客舎青青柳色新 (かくしゃせいせい りゅうしょくあらたなり)
勧君更尽一杯酒 (きみにすすむさらにつくせ いっぱいのさけ)
西出陽関無故人 (にしのかたようかんをいずればこじんなからん)
渭城の朝は夜来の雨が軽い土ぼこりを洗い流し。
旅館の前の柳の新芽はいっそう青々と見える。
さあ、もう一杯酒を飲みたまえ。
西の陽関(関所)を出たら、もう友人もいないのだから。
別離の思いを短い漢詩の中に表している。
何と胸に迫る句だろうか・・・
2007年3月ごろに記した拙ブログに少し加筆してみた^^