ネット恋愛へ


梅うつぎ


K子の婚活 ?


元ブンヤ社長氏と別れてからしばらく、K子は自分の仕事に身を入れていた。
立ち上げたばかりの「リンパ・エステ」をツブスわけにはいかない。
それなりの初期投資もしている。


そして半年ばかりが過ぎたころ、彼女から明るい声で電話があった。
なんと彼女は、「再婚ネット」(仮名)なるところに登録し、
彼をみつけることにしたのだそうである。
ネットに詳しい彼女の娘さんの勧めで、慣れないプロフィールを書き
ハンドルネームも付けサイトにアップしたのだ。
雛形に沿って自分の希望を書き込むのだそうだ。


「けっこうメールが来るのよ!」声が弾んでいる。
「一応、居住地は大阪に絞ったのだけどそれ以外からも来るのよー」
「年齢だって同世代って書いたのに息子のような年齢の人からも来るわ、
なに考えているのかしらね、バカにしているわ」
などと、やっぱり嬉しさを隠せない。
50代後半にして初めて経験するネットでのやり取りを興奮して伝えてくる。


最初は自己紹介などから始まり他愛のないメール交換をしていた彼女。
数ヶ月もすると、まどろっこしくなり、波長が合いそうな人には
どんどんメールを送り、早めに会うことにした。


確かに文章だと、なにごとも一見うるわしくみえる。
また、すべてがロマンティックな感じとなる。
しかし自分のイメージが膨らみ文章からの印象と、実際に会った時の感じが
異なるとがっくりするし、相手を理解してから会うには時間がかかる、
というのが彼女の意見。


なるほど・・そんなものか。


けれどこれまでの知人からの紹介と違い、
今度はすべてが自己責任で行うことになる。
間にひとがいないだけに自分の直感に頼る以外に術がない。
変なひとや男妖怪に出会わないとも限らない。
ネットを介しての出会いには犯罪も多い。
こちらの心配をよそにK子は実行に移した。


そしてわたしは彼女の部屋でエステの施術を受けながら、経過報告を
小説を読むような感じで聞くことになる。
事実は小説より奇なり、というけれどこれがおもしろい!
男性諸氏ごめんなさい、肴にして。


一番印象に残っているのは「帽子男」の話し。
年齢が近く住んでいるところもそんなに離れてはいない。
文章もそれなりに上手で、K子の心をくすぐる。
会ってみてもいいかなぁという気持ちになり、
さっそく最寄りの駅で待ち合わせた。


現われた人物は若いのに何と、腰が曲がっているではないか。
その分背が低く見える。
質くと競輪用の自転車に乗るのが趣味で、まっすぐ立てないのだそうである。
自転車乗りはそうなるのか。
何だか年より老けて見えるなぁ・・
夏の暑い時分なのに、ニット帽を脱がない。


「蒸れるし、頭髪に良くないわ」
彼女は助言した。
そして脱いだ彼の頭を見てまたびっくり!
髪がほとんどない!
送付されてきた写真はずいぶん若い。
会話もメールのようにスイスイと進まない。
何より、話のなかで職種をごまかしていたことがわかった。
年収ももちろん違うようである。
彼とは2回ほど会い、終わった。


その後の男性郡は、バックグラウンドは抜群にいいのに
農協のオジサンタイプのひとがジャンパー姿で
待ち合わせのおしゃれな喫茶店にやってくる人。

一度彼女に会うなり、すっかり舞い上がり早く結婚を、とせき立てる人。

誠実そうで温和な感じのひとで好感の持てた人もいた。
でも結婚となると・・・


プロフィールの中に「老後は緑の自然の豊かなところに住みたい」とK子。
そのことにしっかり呼応するひとがいて、彼女は関心を示した。
よく訊いてみると人生のパートナーより、お金を出してくれる出資者を募っているという。


その男は定年退職後、海辺の近くに農地と古屋を買い、
妻と一緒に農作物を作りのんびり暮らすはずが、妻はとつぜん気持ちが変わり、
さっさと離婚をしてしまった。
あとには農地と家と借金が残り、だから一緒に農地をやってくれる人、兼、
パートナーを募集するという虫のいい話しである。


まったく世の中にはいろんなタイプの男性がいるものだ。
騙されたり、ストーカー男と出会わなかっただけでも幸運である。


男女の出会いに限らず、己が望むべき人との遭遇が
叶わないのが人生である。


それがゆえに、自分のめざす理想の人にめぐり合いたければ、自分を磨き高めるしかない。


K子はネットのなかでどのような男性との縁を結ぶことができるのか?
ネット恋愛症候群は、病膏肓となってゆく。