熟年世代は元気!


シラレー


半年ぶりぐらいに職場の先輩と会った。
かつての勤務先の隣にあるシティホテルで昼食を摂り
おしゃべりをしようということである。


退職してから丸一年がたつ。
予定を入れることが苦痛になっているわたしは、よほどのことがない限り
人と会うことをしていない。
この一年、数えるひとしか会っていないのではないだろうか。
彼女たちと会うのも昨年のわたしの退職の宴を開いてくれた、それ以来である。


食事のあと、オフィスへ顔を出してみようということになっており
久しぶりのオフィスへの外出はちょっと緊張する。


何を着ていこうか。
靴は?バッグは?
いまの季節、着るものに困る。


初夏らしく麻のジャケットとパンツにしようか。
いや、もう少しエレガントにひらひらのプリントのスカートを合わせようか。
迷いながらシックなワンピースを選び、
その上にカジュアルな薄手のカーディガンを羽織ってみた。
靴も低めのヒールを履いた。
前日に美容室に行き髪にウエーブを与えてもらった。
髪が整うとそれなりにどんな服にでも合いそうになるから不思議である。


待ち合わせの時間きっちり二人は現れ、ホテルのなかの和食の店に入る。
かつてよく利用したレストランである。
担当の顔ぶれもそんなに替わってはいない。
ビルの谷間にこんな静かな空間が、と思えるほど
落ち着いた雰囲気を醸している。
きらきら光る池に新緑のもみじが、まぶしい。


一緒に食事をした女性ふたりは、ともに70歳を越している。
話しが面白いので、自分より年長のひとを好むのがわたしの習性だ。


ひとりは、黒地にシックな模様いりのミニのツーピース姿に
可愛い同色のポシェットをかけている。
父親が日本画家だというだけあって、彼女の色彩感覚は洗練されている。
いまは、華道を教え日舞を愉しんでいるという彼女は姿勢もきりりとして
一段と若々しい。


もうひと方は、シックなブラウスに同系色のパンツスタイル。
似たような色柄の帽子がおしゃれである。
40年近く事務局のヘッドの立場にいた仕事大好き人間でもある。
いまでも「どこか働くとこ、ないかしらん?」と訊いている。
見事な「書」をたしなむ人でもある。


よもやま話しのなかで、彼女たちの身近にいる「男とおんな」の話題に
興味深く、耳を傾ける。
知人の夫の徹底した「ケチぶり」に見切りをつけた女性の話しを聞きかじる。
「もっと早く離婚したら良かったのに!」
見切りをつけた熟年女性がその後見違えるほどきれいになり
生き生きとしている姿に、二人は応援したり、驚いたりしている。
「あなた、これから長生きしぃや〜」ひとりが励ましたという。
傍でせっせとわたしは、心の中で取材をする。


わたしの俎上に載ることになるかも知れない。


たわいのないおしゃべりに興じ、勘定をすませると、おみやげを
ということで特製のロールケーキを注文したが売り切れである。
しかたがないので陳列ケースに飾ってあった「わらびもち」を求めた。


久しぶりに訪れたかつての職場は、やはり懐かしい匂いがする。
文房具店の紙の匂いのような・・新しい機器が多いせいか独特の匂いだ。
複数の団体事務局が入っており大勢の職員が大部屋で仕事している。


たった一年の無沙汰なのに、少し他人行儀な気がしてしまう。
でもその空気にすぐ慣れ、あちこちのシマのデスクの人と話しこんでしまう。
かつて知ったる人間関係である、臆することをしない。
しばし、仕事の手を休ませてしまった。


「毎日、何してはるのですかぁ?」
みなに同じようなことを訊かれる。
「グウタラ生活を満喫していますぅ♪」
わたしは同じように答える。
仙人のような毎日の生活ぶりを、目を見開いて聞いている。


実際、わたしの今の生活はグウタラ以外の何ものでもない。
でもそれを愉しんでいる自分がいる。

持参したわらびもちと、冷たいウーロン茶をよばれ職場を辞した。
なんと3時間近くも仕事の邪魔をしている。


ふたりの元気な先輩に刺激をいただき
わたしにとっての非日常の一日が過ぎた。


ドナルド・プリオール