親からの負のメッセージを背に


ロイヤル・スカーレット


人間は生まれた直後から、親からの様々なメッセージを受けて育つ。
それは、「三つ子の魂百まで」と言われるとおり、
良くも悪くも人の生涯を方向つける個性となる。
幼少期に親からうけるメッセージは人間形成に大きな影響を
与えることは周知のとおりである。


先に数回にわたり書いた友人のK子の婚活は
まさにその典型的な一例と思う。


彼女の更年期ようの軽度のウツ的症状が出てきたのは、今から5年ほど前である。
ちょうど夫と離婚を前提にした別居生活を始めたころである。
長いあいだ押し込められていた感情が爆発した、と言える。
心身のバランスが崩れ、カウンセリングに通い、整体に行ったりもした。
いつ電話しても地獄の底から声を絞り出すように暗かった。
別居をして夫との距離を置いても、容易に治まらない。


母親との確執も長いあいだあった。
親との関係が普通一般の母娘のように何の支障もなければ
離婚や別居などとは無縁でおれたかもしれないし
一方で、夫との関係が亀裂に至るまで悪化していなければ
母親とのあいだは、少しは改善できたかも知れないとも思える。
閉塞した状態は「母とK子」「夫とK子」の関係においても似ていた。


K子の活発な婚活に際し、積極的で悪女っぽい面を披露してしまったが
実際は繊細で悩み多き女性でもある。


K子が最近ようやく意思表示や自己主張を始めたことに、わたしは
率直に拍手をしたい気持ちなのである。
何故ならば、K子は夫や母親に対して自分の気持ちを表現できないでいた。
常に鬱々とした感情を抱えて、我慢することを強いられてきた。
NO!が言えなかったのである。
抑圧された感情ともいうべきか。


長女として生まれた彼女は、両親の不仲を幼いころから見て育っている。
父親は他に女性をつくり子どもまで成している。
母親は当然、怒り、悲しみ、苦しむ。


両親は子どもたちが成人してのち離婚したが、母のその感情のはけ口は
長いあいだK子ひとりに向けられていた。
幼いころから母の聴き役を強いられる。
母の口をついて出るのは「空極のマイナス志向」のみである。
マイナスの過去しか口にしないひとである。
愚痴、怒り、嫉妬、罵倒、すべての感情の掃き溜めにされ
母親の精神の弱さと向き合うことになる。


母親は娘のK子に依存し、娘は母を受容し、二人は逆の親子関係で年月を経ている。


「暗くていやな家族から離れたい、家を出たいとずっと思っていた」と彼女はいう。
そしてお見合いの人との結婚に飛びついたのが夫だった。


結婚生活で彼女の心が癒され満たされると思いきや
ここでもまた、彼女は母親役を演じざるを得なくなる。
1歳年下の夫は、ひとときちんと向き合うことができない。
会話のかみ合わない夫婦。
ロボットのように心が通じない。
気が付くのにそう、時間はかからなかった。


家族の中に温かい安住の地を求めて、それなりに工夫や努力もしただろう。
しかしその溝を埋めること叶わず。
ただ自分の子どもたちが理解者であることが救いである。


紆余曲折を経て、いまK子は母親と向き合う元気を取り戻している。
5年間の一人暮らしや、夫や母との距離を置いたからかも知れない。
半世紀以上ものあいだ呪縛にかかっていたかのような、彼女のこころが
少しずつ、解き放たれている。


人が人に与える影響の大きさを思わずには、おれない。
まだ負のメッセージから十分解き放たれていない。
またパニックに陥るかも知れない。
けれど風穴があいた己が楽に生きられるようになり、K子は嬉しいに違いない。
母親を受け入れられるようになれたことは一歩前進というべきか。


ひとりの人間が成長していく過程で、肉親が与える影響は大きい。
特に母子密着ともいえる関係性の中では影を落とす。
言葉の持つ魔力は侮れないし、負のメッセージはひとを萎縮させる。


自分の人生脚本は自分で変えられる。


図らずも母と向き合うことになったK子ではあるが
無理をせず、支援を求めながらこれからを歩いて欲しいと願う。



ロイヤル・スカーレット