クーリーとポーリー

わが家に咲いている宿根草


知人は老犬を飼っている。
座敷犬ではなく外で番犬としての使命を浴びていて
もう10年以上一緒に暮らしているから
どれぐらいの年齢になるのだろうか。
うとうと毎日、寝てばかりいるようで
このところ好きな散歩もおねだりしなくなっている。


そんな平和な知人宅に珍客が登場した。
雌の捨て猫だ。
知人宅の老犬(クーリー)のもとを訪れては
クーリーのそばに行き、ちょっかいを出す。
寒いときなどクーリーのために敷いてやっている
毛布をはぎ、しっかりそれに包まって寝ている。


その捨て猫に知人の、幼稚園に行っているお孫ちゃんが名前をつけた。
「ポーリー」と名づけられたその捨て猫はその家で飼われるというより
軒下に居候という形をとっている。
中には入れない。


ポーリーの餌も飼わなくては、ならない。
しかしその捨て猫、ずいぶん餌にこだわりをもっている猫ちゃんのようで
市販のそれにはプイと横を向き何でも、食べない。


家のかつお節など昔ながらのを与えると喜んで食べまた催促する。
「まったくわがままな奴や!」知人は怒り、しばらくほっておくと
ご主人様のご機嫌を伺うように擦り寄っていく。
「猫のくせして賢いわー人間の気持ちを察している」
などと感心している。


そのポーリーちゃん、生まれたときから溺愛されて育ったらしく
毛並みもつやが良く上品でのんびりとしていてる。
ちゃんと人間の言葉を解する。
「ずる賢いやつめ!けど憎めない奴だ」などと言いながら
少しずつその捨て猫に愛着を抱くようになった。
結局、ポーリーさまの言われるままにクーリーのえさ代より高価な
キャットフードを買う羽目になっている。
老いた番犬クーリーと捨て猫ポーリーとの暮らしが始まった。


その知人と顔を合わせるたびに「クーリー、ポーリー物語」をわたしは聞く。
飼い主とポーリーが同じレベルでやり合っている(喧嘩?)など
詳細に聴くと面白く、ひとつの「猫物語」もできそうだなと、楽しみにしていた。


ところが最近になってその知人が、ポーリーのことを話さなくなった。
「クーリーとポーリーのご機嫌はいかが?」話しを向けると
それが・・・・と口ごもり「毒殺された」と、いうではないか。


驚きを隠せず詳しく訊いてみると、ポーリーは家の中で
飼っているわけではなく夜になると、どこかへ遊びに行き
帰ってくると老犬クーリーの傍で寝る毎日だった。


ある朝、いつものようにポーリーが帰ってくると様子が変だ。
ヨタヨタと息も、切れ切れである。
「明らかに何か変なものを食べさせられたか、飲まされたのだ」と思ったという。
あわてて近くの獣医にと思っても間に合わず、苦しみながら
あっという間に死んでしまった。
「毒を飲まされたのだ」さすがに知人もショックで
あえて、そのことをわたしに伏せていたという。


知人の住居のまわりには新興の住宅地が並び、マンションが林立してきた。
「その住人の仕業ではないか」と思うが証拠もないし、第一だれかもわからない。
役所に連絡し、火葬にしたあと指定のところに埋めてやった。
「猫を飼うときはもう部屋の中で飼う」と寂しく知人。


あっけないポーリーの最期に胸が痛む。
クーリーとポーリーの話をするときの知人の目じりが下がっていたことを思い出す。


2,3年前の宿根草・・いずれも名を忘れた。
紫系の小花が好きだ。