“精霊流し”の歌が




♪ 去年のあなたの思い出が テープレコーダーからこぼれてきます♪


葬祭会場へ入ると、さだまさしの「精霊流し」の歌が
切なげに、ひそやかに聴こえてくる。
故人が好きな曲だったらしい。


従姉妹が死んだ。
先月、還暦を迎えたばかりなのでまだ若い。
わたしと同じく大阪に嫁して来た、唯一のいとこであり
姉(例の仮称“花子”)が再婚した相手(仮称“太郎”)の妹である。


彼女とわたしは電車で1時間ほどの距離に住んでいながら
さほど行き来はしていなかった。
帰省の際や盆正月に集まったときに会う程度である。
それでも歳が近いせいか、会うと子どものこと、趣味のこと
仕事のことなど話は尽きなかった。
細面の美人である。
性格も柔和で、いつも穏やかな笑みを浮かべていた。


その彼女が病んでいることは知っていた。
大腸がんから肝臓への転移がみつかり5年ほど前に手術をしていた。
「5年生存できればいいほうだ」
医者に言われたとおりの寿命をまっとうした、と家族は言う。


先般、執なわれた母親の一周忌に帰って来なかったことを知らされて
よほど悪いのだろうかと案じていた矢先の訃報である。
昨年、叔母の葬式のときに会った彼女は、顔色が悪く
声も弱々しく、しんどそうだったことを覚えている。


♪ あなたのために、お友達も 集まってくれました
せんこう花火がみえますか  空の上から
約束通りに あなたの愛した レコードもいっしょに流しましょう ♪


繰り返し、繰り返し、切なげに、この曲が流れる。
わたしも、さだまさしは好きだ。
精霊流し」も時々、聴いている。
しかしこんなに哀しく切ない思いで聴くのは、初めてだろう。


2歳と3歳のお孫ちゃんは、ぐずりもせず、気持ちよさそうに、
ぐっすり寝入り、セレモニーは静かにしめやかにくくられた。
旅立った、おばぁちゃんが守っているように感じられた。


残された夫の顔が苦渋に満ちた表情になっている。
子息や愛娘の肩が哀しみをこらえるように震えている。
それは、かつてのわたしであり、わが子どもたちともダブる。


人はいつか死ぬけれど、自分がどんなふうに逝くのか今は想像できない。
こうして花をたくさん手向けられ、惜しまれ、送られるのだろうか。


♪約束通りに あなたの嫌いな 涙は見せずに 過ごしましょう
そして黙って舟のあとを ついていきましょう♪


ないしょ話しをするように耳に届くこの曲が、胸に痛い。
当分、わたしは聞けないだろう、さだまさしの歌を・・・。


M子ちゃん、安らかに・・・
今日は、あなたのことをいっぱい思い出します。
ご冥福を祈ります。