「ふたつよいこと、さてないものよ」

表題は、わたしのブログのコメントに寄せられた言葉である。
シニアナビの、ある方が書いてくれた。
実はわたしもその語句が好きで、落ち込んだりしたときに
思い出しては自分を慰めたりすることがある。


臨床心理士河合隼雄さんは、著書「こころの処方箋」のなかで
たくさんのこのような宝石を散りばめている。
こころの専門家であるから、一つひとつが胸にすっと響く。


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「ふたつよいこと、さてないものよ」は、ひとつよいことがあると
ひとつ悪いことがあると考えられる、と言っている。


抜擢されたときは同僚の妬みを買うだろう。
宝くじに当たるとたかりにくるのがいるはずだ。
世の中うまくできていて、よいことずくめにならないよう仕組まれている。
このことを知らないために、愚痴を言ったり、文句を言ったりばかりして
生きている人もいる。


そのひとの言っている悪いことは、何かよいことのバランスのために
存在していることを見抜けていない。


※※※※※※※※※※※※ 抜粋


人間はよいことずくめを望んでいるので、何か嫌なことがあると
文句のひとつも言いたくなってくるがそんなとき、この語句をつぶやいて
全体の状況をみると、うまくできているなぁと余裕が生まれるのだそうだ。


生きていると、悲喜こもごもいろいろなことがある。
そしてそれはどちらも長く続くことは少ない。


先日、お会いした節子さんは70代の後半である。
明るくて元気いっぱいに見える。
そんな彼女だが長年の夫の借金癖に悩まされ
愚痴をいいながらも一生懸命働き、それを完済し
いまは、夫のその癖もなく穏やかな暮らしをされている。


その節子さん夫妻に新たな危機が訪れた。
80代に入った夫に肝臓がんが見つかったのだ。
おまけに糖尿病を併発しているということで、深刻である。


心中を察すると言葉も出ないほどだが、本人は至って楽観的だ。
「今まで、さんざん大変な思いをしてきたから今さら
夫の病気なんかでオタオタしておれない」と言うのだ。
「それよりも、まだわたしが元気で動けるうちにお父ちゃんの
病気がわかってよかった。もっと年老いてからだと子どもたちに
負担がかかるから」と屈託がない。
心の奥底では懊悩しているかもしれないが
どこからそんなエネルギーが出ているのか知りたいぐらいである。


それに最初は手術ができないといわれていたのに、息子がネットで
調べてその専門医の治療に当たることになり手術ができることになった!
と喜んでいる。


物事は考えようだなぁと思う。
確かに病気そのものに焦点を当てればこんなに辛いことはなく
精神的、経済的負担も大きくのしかかる。
「保険も満期になるのがあるし、今だから良かった」とカラリと言う。


「闇の中から光を探す」がごとくのその生き方にわたしは脱帽した。
人間はやっぱり素晴らしい。
そして「ふたつよいこと、さてないものよ」と思うのである。


伊勢系・暁の園