母は強し!

朝起きて、ベランダをそっと窺う。
激しい雨から身を守るように昨夜の鳩がひっそり
沈丁花の鉢の上に丸まっている。
まだ未練があるらしい。


この2,3日、ハトのつがいが、わが家のベランダの壁の端に
背を並べて止まっているのを見かけた。
グググ〜〜という愛の交感の泣き声なのか、悩ましいような
甘えたような感じの鳴き声が聞こえていた。
なんども追いはらおうとしても、まったく逃げない。


それから1日経ち、朝ふっとベランダの隅っこを見ると
貝殻の破片のようなものが落ちている。
え?何これ・・・
風といっしょに吹き込んできたのだろうか。
ひょっとして鳩が巣作りのために運んできたのでは?
ちょっといやな予感がした。


少し目を離している隙に沈丁花の鉢の中になんと今度は
ワラくずや、草や、卵の殻を乗せているではないか。
やっぱりここで巣作りを始めたのだ。
「えらいことや!ここでそんなことをしてもらうわけにはいかない」
鳩には悪いが、きれいさっぱり、それらをかき集め捨てた。


鉢の中は何もないはずなのに、相変わらず鳩のつがいは、やってくる。
そして2羽が仲良く丸まっている。
ふたつの丸い背中が可愛いとは思うけれど、やっぱりここにいてもらっては困る。
ほうきで、つつき退散させることしばしばである。
でも、やっぱりやってくる。


昨日、来客があったときもずっと鳴き続けるから、鳩の話になり
「鳩はしぶといよー、きちんと追っ払わないと」と助言して帰った。


夕食を済ませ雨の中、ベランダの隅を見ると
鉢の中に白い楕円形の5センチほどの卵が転がっている。
「いやぁ、やっぱり卵を産んでいる!」
びっくりして至近距離から覗くとその後ろのほうで
母親?がじっとこちらを警戒するように見つめている。
まるで、「この子に触れないで」とでも言うかのように・・・。




それから雨風の強いなかで鳩との攻防が始まった。
さてどうしよう、どのように撤退させるか・・・
大きな懐中電灯を持ち出ししっかり鳩を照らすと、じっとこちらを見ている。
ほうきでシッと追っ払っても、ガンと動こうとしない。
何回もそれを繰りかえす。
卵に上乗りにしてかばっているようである。
子どもを守る親は強い!
そして目をじっと射るようにこちらを見る。
何だか逆襲されそうで怖い。


それでもこちらも、ひるんでいるわけにいかず、またほうきでつつく。
沈丁花の葉がたくさん落ち、あたりが葉っぱで散らかる。
ベランダの柵をガンガンたたき、脅かし、ほうきでまたつつく。
ようやく鳩が身をずらし、隣の壁にへばりつくように退いた。

鉢には卵がひとつ残されている。
それを柄杓ですくい取り上げると
生温かさが伝わるような卵を持ったまま、構内の庭木のそばに置いた。
どの親でも子は可愛いはず、胸がちらりと痛んだが仕方がない。


わが家に戻ってベランダを覗くと果たして、
親鳩が同じ場所に座っていて悲しげな表情でこちらを見ている。
「ごめんね、ここで育ててもらっちゃ困るのよ」心の中で詫びた。


そして今朝、覗くと相変わらず夕べの鳩が同じところに陣取っている。
参ったなぁ・・・どうしたものか。
ちょっと策を練らないといけない。