食欲、衰えず

ある用事で知人宅を訪れた。
知人は80代前半であるけれど、施設に入っている夫を
気丈にひとりで介護しながら、自立した生活を送っている。


いまひとりで暮らす知人女性の暮らしぶりをみて刺激を受けた。
ちぎり絵を最近まで習っていたという作品を、応接室や和室に
センスよく飾り、部屋のあちこちには可憐な山野草の小花が生けられている。
高齢であっても生活の質の高さがうかがえる。


その日、彼女宅に集まったのは、彼女の娘や孫世代の
年齢層ばかり20人近い。
平日の昼間にこれだけの人が集まるのはよほど彼女の
人徳によるものだろうと思えた。


ひと通り「用事」を終えると、お昼どきである。
驚いたことに彼女は、訪問した皆のために散らし寿司を用意してくれていた。
他の人たちも、それぞれお惣菜を一品ずつ持ち寄っている。
わたしは急に誘われその任になかったし、すぐにお暇するつもりでいた。
あまり他所のお宅で食事をよばれることが好きではないせいもある。
しかし、結局よばれることになってしまったのである。


手分けして、持ち寄った料理やお茶を、ふたつのテーブルに並べると
豪華でちょっとしたバイキングのようである。


写真でも撮ればよかったと思うほど、食のそそる料理が
盛りだくさんに並んだ。


散らし寿司のおにぎり
こしあんのおはぎ
冷やしそうめん (具たくさんである)
ゴウヤチャンプル
茄子の煮浸し
イカとサトイモの煮物
焼きたて山形パン
などなど・・・・あとは覚えていない。
どれもおいしい!
これだけたくさんの料理を昼間から食べることは、あまりない。
ホテルのバイキングでもこんなにたくさん食べられない。


「イカとサトイモの煮物」は、ほどよく味がしみこみ、
芋も煮くずれしていない。
「これだったら売れるわね〜」などと話していると、
作ったご本人は居酒屋さんをしていたそうである。
やっぱりなぁ・・・プロの味だ。
イカもサトイモも、「別々に煮るのよ」と教えてくれた。


冷やしそうめんの具もしいたけ、錦卵、サラダの類がたくさん載っていて美味。
つゆも手作りをたっぷり、ペットボトルに入れてきていた。
シイタケは甘辛く炊いて一枚ずつ冷凍して食べるとき載せるのよ、
と教えてくれる。
「茄子の煮浸し」は、ごま油で炒め、薄味をつけてある。
これもお代わりをするほどおいしい!
ゴウヤチャンプルもわが家の味とひと味違う。
よその人が作ったのは、刺激になり勉強になるなぁ。


ということで、妊婦さんのお腹のようにぷっくり膨れるほど
よばれて、帰ってきた。
これだったら、夜ご飯はいらないかも、などと思っていても
やはり時間がたつとお腹は空く。
でも、今晩は一段と粗食にしよう。


かくして、わがやの夕餉は、嫁の母親の実家(和歌山)から
送られてきた「アジの干物」がメインである。
これも負けずにおいしいのである。
残り物のゴウヤを味噌で炒め、芽かぶや、簡素なサラダで済ます。


これだけの猛暑に関わらずいっこうに食欲だけは衰えない。
何とかの大食いか・・・。