70代のキャリアウーマン

わたしのまわりには、70歳を越してなお現役で
仕事に勤しんでいるひとが多い。
そのなかのひとりNさんは、デザイナー暦50年には
なるだろうか。


若いころから服のデザインと制作をやってきて、
本格的に取り組みだしたのは、同居している舅姑を
看送ってからだから、決して早いスタートではない。


今は着物のリフォームを専門としていて
ある大手流通に店を構え、自宅でアトリエも開いている。
垢抜けたセンスと独創的な作品は目の肥えた有閑マダムを
虜にしていて、顧客は絶えない。


わたしも何着か作っていただいた。



羽織から生まれたイブニングドレス
ウエストに切り替えがあるロングである。
黒地に朱色の紋様が映える。



留袖を染め直して作ったミニのフォーマルドレス
同生地のかわいいボレロがついている。



祖父の着物から出来たツーピース
襟元がかわいいワンピースにジャケットがついている。


など、他にも錦絵のような豪華な帯から生まれたチャイナドレスもある。
これはどこにしまったか、わからない。


年齢を経ても生き生きと輝いている彼女を見ると
手に職をもった女性の強みと、たくましさを思う。


着物のリフォームが、さほど認知されていないころ
彼女Nさんとは、仕事を通じて知り合った。
わたしは40代、ある企業の宣伝・企画を担当しており
ひとまわり年長の彼女もまだ若かった。
エネルギーいっぱいのころである。


Nさんの「着物のリフォーム作品」を用いた企画が通り、
「ファッションショー」を開催したのは、まだ
経済的閉塞感のないころで、予算はたっぷり計上された。


モデルは広告で一般公募した。
出演者に報酬は出ないけれど、多少のスティタス感がくすぐられるのか
子どもから主婦層まで応募者は殺到した。


100着以上ある作品のセレクトとモデルの構成。
その選択が終わると、本格的にプロの指導のもとに、
ウォーキングの練習を重ねてもらう。
舞台の上で、歩き方からターンなど、観客の目を意識した
本格的なものである。


企画から開催までおよそ半年ほどかけたが、
その間小さなトラブルや突発的なことに見舞われ
無事終えたときには、どんなにホッとしたことか。
とりあえずは成功裏に収めることができ、一緒に
修羅を乗り切ったことで、わたしとNさんは
深い縁ができた。


姉のような母親のような慈悲を感じさせる彼女に
わたしはずいぶん、精神的に救われた。


そのNさんが昨年、伴侶を亡くし
その寂しさを仕事で乗り切っている。
なんの助けもできないわたしだが、身近で見守ることはできる。


気丈夫な70代の必殺仕事人。
目指すは80歳以上まで現役であったデザイナーの
コシノ・アヤコさんである。(コシノ三姉妹の母上)
仕事を愉しみながら、ご自分のからだも慈しんで頂きたいと願っている。