麗しきは・・・

声か,話し方か・・・。
歳を経るとだんだん声のトーンが下がり、ダミ声になっていると感じる。
わたしは他人の声や、話し方がなぜか気になるほうである。
特に声のきれいな人には男女問わず、惚れてしまう。


現役のころ、取引先の人と何度も電話で話していると、
密かに声を通して値踏み?している自分がいた。


中央の(霞ヶ関)の男性は、役職からして年齢は40代前半ごろだと
思うが、その声と話し方には毎度の事ながら聞き惚れていた。
若々しくハキハキとしたしゃべり方と、抑えた声がいい。
東京言葉というのだろうか、語尾もすっきりしていて
同世代の関西男性のそれとは違う趣がある。
ささやきかけるように話す、その話し方にセクシーさも感じた。


50代のある女性は「できるタイプ」の人だということが、すぐわかる。
打てば響くように帰ってくる返信の速さと仕事の進め方に、そつがない。
「訓練されているなぁ」と、いつも舌を巻く思いだった。
会話の中に無駄がないのに、冷たい感じも受けない。
何より電話で話すときの声がいい。
すずやかな声のトーンは、色っぽくて女性のわたしでさえ、
うっとりするほどである。


もちろん本人はそんなことには頓着していないようだったが
関西人でありながら共通語できれいな言葉を発する話し方に
何か秘訣でも?と思い、訊くと、やはり!
アナウンサー志望でかなりの訓練を積んでいたことがわかった。
なるほどねぇ。
一日にしては成らないのである。


印象に残るふたりの方に後日、ある会議でお目にかかった。
声美男子と話し方美人は、どんな感じの人なのだろうか。
ワクワクする思いで会ってみると、果たして想像とおりである。


揃っておしゃれで、知的さを人一倍感じさせた。
笑顔もたまらなく素敵に見える。
「天は二物を与える」のだなぁ、と妙に感心したけれど
それは決してタナボタで手に入れたものではなく
意識して訓練した結果であるとわかり、得心した。


映画「ゴッドファザー」の三作目にドンの娘が式辞を述べるくだりがある。
若い彼女は、大きなボランティアのトップに就任することになったのである。
親戚縁者、お歴々の来賓が連ねている。
そのなかで、パパであるドンが娘に助言する。
「いいか、声のトーンを下げて話すのだ」と。
父親の言いつけ通り意識して読み上げた。
りっぱにセレモニーの主役を果した娘は、パパに褒められている。


確かに声のトーンを下げると会場での響きや耳障りがいい。
何より知的さが伝わる。
話し方や声を意識することは、自らを演出することに役立つ。
のんべんだらりとしているわたしは、ますますダミ声に拍車がかかる。
何とかせねば・・・。
久しく涼やかな声にも出会っていない。


さざんか(千代鶴)