ひとりの時間

高齢者宅へのパソコン出張は続いている。
年が明けて初めて訪れると待ちかねたように歓待してくれる。
「ぜんぜん練習する暇がなくて・・・」と言いながら
課題の文書のベタ打ちは、こなしており自発的に新聞の「社説」を
打ちこんでいるではないか。
「相当、時間がかかったのよー」と、満足そうである。
ところどころ、文字間の隙間があいたり、改行がされていたり、
いなかったり。
それでも文字入力の練習でここまでやる気力は大したものだ。
「すごい、すごい!」たくさん褒めてねぎらった。


とりあえず2ページ分ほどの文章を編集することにした。
タイトルの文字の大きさ、書体、色、下線付き、太字、拡大・縮小・・・
編集したい文字列をドラッグし、それぞれを一つづつ実行する。
カーソル、マウス、ドラッグ、の用語も繰り返す。
「とにかく変えたい部分を青く反転させないと変わらないですよー」
編集されるたびに、「へぇそうなのか・・うん」と納得し
ノートに書き入れたりもう興味津々である。
ほんとに面白くて仕方ない!という感じである。


文字列のルビを打つことも覚えた。
文中の専門用語のわからない文字は辞書で引くなどしているらしく
パソコンの横に辞書も広げてある。
それでも出てこない漢字は?ということでツールから「IMEパッド」を
引っ張り出し、手描き文字に挑戦してもらった。
カタカナの変換、スペルの変換などやってみると面白いらしい。
彼女にしてみればすべてが好奇の対象で、わかることが増えて大喜びである。


40分ほどすると、「疲れたからお茶にしない?」ということで
焼きたての餅を入れた熱々のぜんざいをご馳走になった。
鏡開きのお餅らしい。



彼女は、パソコンを習得する以外に、こうしてお茶を飲みながら
話をすることも、楽しみにしているようである。
ご主人が介護施設に入所され、10年ほどかかりきりだった介護から
開放され、ようやくひとりの時間が持てて嬉しいとも言っている。


つい最近、えべっさんにご近所の方数人と、お参りに行き
そのあと一緒に食事などしたけれど、「ぜんぜん話が合わないの!」
「くだらない話しばかりで、時間がもったいない」
「ひとりで家で、こうしてパソコンに向かったりしているほうが
充実感があるわ!」と新しい楽しみをみつけ満足げである。


晩年をどのように過ごすかは、それぞれの生き方による。
他との交流で自らの活性化を促すことが好きな人もいれば
ゆったりと、内省しながらひとり時間に浸るのを
心地よいと感じるひともいる。


彼女はやっと訪れたひとりの時間を、しっかり愉しもうとしている。
パソコンを通じてその人となりを知ることもおもしろい。