おもしろくない。

第144回下半期、芥川龍之介賞受賞作品は
「きことわ」の朝吹真理子、「苦役列車」の西村賢太である。


「文芸春秋」3月号掲載の、両者の受賞作に目を通してみた。
正直言って、ぜんぜんおもしろくない。
斬新さが売り物の奇をてらう賞だから仕方ないのかもしれないけれど
感覚的についていけないのである。


特に朝吹真理子の「きことわ」は貴子と永遠子という
二人の女性のある時期を、時間の観念とともに追っている
作品のようだが、最初の数ページに
目を通しただけで飽きてしまった。
現実離れした、やたらとひらがなが多い言葉遊びの感があり
途中で読むことをほおり投げた。


おどろおどろした、西村賢太の「苦役列車」は、
8割が事実で2割が脚色だそうが
それにしても、あんなに汚い描写の連続は気分が悪くなる。
何とか読み通せたのは、最後に人生に対する一抹の光明が
射し、元気な展開になるのか、という期待があったからだが
まったくそうでなかった。
結局、この物語のなかで何を言いたいのか、わからない。


朝吹真理子は現在、慶応大大学院に在籍中で、初候補作での受賞。
父は詩人で仏文学者の朝吹亮二
大叔母はフランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」などの
翻訳で知られる朝吹登水子、シャンソン歌手の石井好子さんも
大叔母にあたるという“サラブレッド”だ。


芥川賞の選評のなかで彼女の「きことわ」について、
選考委員の石原慎太郎氏は
「二人の女性の過去から現在、現在から過去への
意識の流れを緻密に描いた作品だ。
読みながらすぐにプルーストを想起したが、
人間の意識に身体性がないとはいわないが、
プルーストが苦手なわたしには冗漫、退屈の感が
否めなかった。ある時点での意識を表象するディティルの描写に
むらがあるような気がする」と書いている。


西村賢太は、公立の中学を卒業後、これまでにフリーターなどで
生計を立て、03年7月から同人雑誌「煉瓦」に参加して
小説を書き始めたという経歴の持ち主。


選者の島田雅彦氏は、西村賢太の「苦役列車」は
「古い器を磨き、そこに悪酔いする酒を注いだような作品だ。
食欲と性欲にだけ忠実なダメ男はあさってには、
ホームレスになりそうな
暮らしから抜け出ることができない。
社会や政治を呪うことさえできず、何ごとも身近な他人のせいにする
そのダメぷりだが随所に自己戯画化が施してあり、笑える」と評している。


高木のぶ子氏は、「人間の卑しさ、浅ましさをとことん自虐的に
私小説風に描き、読者を辟易させることに成功している。
これほどまでに呪詛的な愚行のエネルギーを溜めた人間であれば
自傷か他傷か、神か悪魔の発見か何か起きそうなものだと期待したけれど
卑しさと浅ましさがひたすら連続するだけで物足りなかった」という。


賞賛、酷評あるなかで、「苦役列車」に対しての
高木のぶ子の意見にわたしは近い。
それにしても、こうも面白くないと感じるのは、
わたしの精神が若くないからだろうか。


梅は森の関です。