主役交代

孫の潤平は、この春から幼稚園の年長(中)に繰り上がり
昨春から通い始めた1年の成長には目を見張るものがある。
しっかり自分の世界をみつけた彼は、
なんやかやと自己主張のはっきりしてきた妹かえでの無理を
聞いてやる余裕も出てきた。


花楓(かえで)が生まれたとき、潤平は2歳を少し過ぎており
ちょうど今のかえでのころにお兄ちゃんになった。
やんちゃな時期にさしかかるころで
それまでママを独占していたのが、妹のかえでに手を
かけるようになると、ひとりでナイフやフォークを
持つことや、おしっこを教えることなどをしなくなり
ママをあわてさせた。
退行現象の現れである。


どうしても一番小さい、生まれたての赤ちゃんに目がいく。
潤平がやきもちを焼かないように、周囲もばぁばも気を使い
できるだけ潤平に先に話しかけ、遊んでやるなどしていた。


主役はいつも潤平である。


かえでもぐんぐん成長し、ふたりの年齢の差が
縮まるように感じられるこのごろ
言葉や意思表示がはっきりしてくると二人は
仲良く遊びもするが、喧嘩も多くなる。


潤平は、わざと負けてやったりもするけれど
かえではそんなことは露知らず、目いっぱい自分の我を通す。
特に好き嫌いは、はっきりしていて、いやなことはぜったい妥協しない。
プイ!と顔をそむけ「イヤっ」を連発し頑固で、とりつくしまがない。


最近では、潤平がわざと負けてあげなくとも、かえでのほうが強くなり
ママも「ふたりが逆転するのは時間の問題!」などと言っている。
はっきりモノを言い、廻らない舌でちゃんと自己表現するあたり
潤平といい勝負である。


勝気でやんちゃな2歳も最近は
女の子らしい優しさを示してくれる。
特に「痛い」という感情がわかってきたようである。


先日も車のなかで、ばぁばの隣に座り戯れていると
ばぁばの人差し指をいとおしそうに、両手で抱え
まゆにシワを寄せ「ばぁば痛い?」と訊く。
何のことかと思うと・・・
なるほど、人差し指に「さかむけ」のようなものがあり
赤く腫れている。
ばぁばも気がつかなかった。
それが痛々しく写ったのだろう。


かと思うと、ばぁばの唇に可愛い小さな指を当てて、なでると
眉間にシワをよせ「ばぁば痛い?」と訊ねる。
なるほど、唇が乾燥してパリパリになっている。
痛いと感じたのだろう。
「痛くないよ、ありがとう」というと安心したように遊び始める。
まぁよく見ている。。
いたわりの言葉をかけてくれるのが嬉しい。


かえでは最近、おっぱいを卒業したところである。
ママはおっぱいに絆創膏を張り、かえでの飲みたい要望を
かわしている。
「ママ、ぱいぱい痛い?」と、やっぱり顔を曇らせ心配顔で訊く。
「ぱいぱい痛いよ」とママが答えると神妙に納得している。


かえでも小さな成長を重ね、乳児から幼児への脱皮をしている。
潤平は歳の違わない妹に「かえで、抱っこしたろ!」と
お兄ちゃんらしさを振舞う。
嬉しそうに鼻水をたらした顔を押し付け、かえでは抱っこされている。
やっぱりお兄ちゃんは、いいらしい。


潤平は、ひとまわり大きくなり、妹を見守っているかのようであり
主役の座は、いつの間にか交代している。