居候3杯目は、そっと出し・・・

甥は、れっきとした所帯主である。
なのに「たくさん食べる」ことが因で妻から
別居生活を強いられている。


新婚間もないころ、甥夫婦は二人で暮らしていた。
しっかり者で家庭的な感じの嫁に恵まれ
「いい結婚したねぇ」とわたしなど、羨ましく思ったものだ。


その甥っ子夫婦が、嫁の実家で暮らすようになったのは
第一子が生まれたころだったろうか。
嫁は一人っ子であり、どういう事情から同居にいたったのか、
わたしは詳しく知らない。


姉夫婦は長男を養子にやったわけでもないし、と同居に渋面だったが
けっきょく嫁に押し切られ、一緒に住むことになった。


甥夫婦は、妻の義父母と同居するにあたり、家屋の改装もして
その費用も快く出した。
妻の母親は、料理好きでまめに動く家庭的な人らしい。
娘夫婦が同居してくれ、大層よろこんでいた。


台所におんな二人は要らないからと家事や子どもの面倒を
母親に任せ、嫁は働き出した。
よくあるパターンである。


居心地がいいように感じられた同居生活が、
ギクシャクしだしたのは、そう遠くはない。


原因のひとつに、嫁の母親からすると「婿の大食漢」が挙げられる。
甥は身長185センチ、体重もそこそこある立派な体躯である。


仕事から帰ってきて家族と食卓を囲むとき
妻の母親が「婿の食事の量」に驚いたという。
華奢な娘だけで、男子を生んでいない姑には
成人男性のそれは予想外だったのだろう。
なぜ、たくさん食べることが姑の勘に触るのか・・・


食事を摂るのに小さくなっている、と息子から聞いた姉は嘆き
また心を痛めてもいた。


最初は些事に見えていたことが気持ちの負担になったのか
今度は妻が自分の両親に気を使うようになり、
とうとう、ウツ病を発症したのだという。


ひとつ屋根の下で暗い表情の妻の顔色を伺い
義父母に気を使い、甥っ子も同居を後悔したが後の祭りである。


きちんと働き妻子を養っている身でありながら、食べることに
何の遠慮がいるものか、と姉夫婦も立腹していたところ
嫁のウツがひどくなり「出て行って欲しい」と
追い出される始末である。


夫婦のあいだのことは、当人同士でないとわからない。
表に出ない原因も多々あるだろう。
しかし、ムコ殿の「大食い」が気に入らないのであれば
別居をしてでも夫婦のあいだを修正するのが
マトモだと思うのだが、嫁は実家の両親のほうを選んだ。


「居候3杯目はそっと出し・・」が悲しく胸に響く。
居候ではない甥っ子が、気の毒に思えて仕方がない。


ひまわりはサンスターという名です。
もう咲いています、万博にて