お生まれはどちら?

東京や大阪などの大都市に住んでいたり、
国家公務員や大きな企業・団体に属しているとき
お互いがどちらの出身かを訊ねることがある。
またスポーツの世界でも○○県出身や△△校出身などの
紹介は当たり前のようである。


昭和30年代の東京では、東京生まれの人間より
地方生まれの東京人が多かったと聞いている。
今日ではそうした地方出身の東京人の子ども(二世)が
正真正銘の東京生まれの東京人となって、
東京の人口の大半を占めているのではないだろうか。


昔から武士が戦いの場で名乗りを上げるとき、
また江戸時代の博徒は“手前生国を発しますに…“と
やっていたようだ。(講談師の創作か?)。


名乗りとは、戦において武士が味方や敵に向かって
自分の姓名・身分・家系などの素性、戦功、
戦における自分の主張や正当性などを大声で告げること。
武士の作法として、名乗りが行われている間に
攻撃することは良しとされなかった。
戦場では自分の勇名や戦功を喧伝するためなどに行われ、
味方の士気を上げるためや相手方の士気を
挫いたり挑発するためにも行なわれた。
名乗りは戦功の証明として論功行賞に関わることでもあり
平安時代末期ごろから盛んに行われるようになった。
名のある相手と見受ければ名乗りを上げて相手の名を求めることもあった。
(ウイキペディア)


ちなみに、かの車寅次郎(香具師)の口上は次のようだった。
♪「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。
帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、
人呼んでフーテンの寅と発します。皆様ともども
冥利ジャンズ高鳴る大東京に仮の住まいまかりあります」♪


日本人は「隣百姓」民族ではないかと思っている。
自分と関る人の氏素性を知っていると何かと親近感を持ちやすい。
そこで「生まれはどちらですか?」となってくる。
これではまるで、公判の人定質問(被告人の本人確認のために、
名前や住所、本籍などを裁判長が確認する質問)のようだ。


そんなことから、初対面の人に向き合う際の日本人の
あり方について興味をもっていると・・・


ある小冊子(學士會会報)に松山幸雄氏(元朝日新聞論説主幹)が
おもしろいことを述べていたから少し紹介する。



日本人が初対面の相手に対してまず注意を払うのは下記が多い。
1.その人の属している組織.
2.肩書き. 
3.学歴.
4.人柄に協調性があるかどうか.


一方アメリカでの初対面の人物判定で重視されるのは

1.瞬発力(対応性?).
2.論理的な発言.
3.ユニークさ.
4.ネアカな気質とユーモアのセンス.


こうした“国際社会向き”の資質は、生まれつきもあるが
アメリカ人の場合、主として学校、とりわけ大学時代に身につけ、
伸ばしてきたのだといって間違いないとも言っている。



このように初対面の相手に求めるものは日本とアメリカでは
差があり、物指しの違いが大きいことを物語る。
確かに、日本的情報収集は、過去と所属組織のことに重点をおいている。
それに反して米国人が見つめるものは、優れた過去や
組織ではなく、現在と将来に向かった個人の能力と
将来の価値を問うている。


世界に寄与する日本の大企業は、リーマン・ショック以降、徐々に
米国型になりつつあるように感じている。
したがって、出身地や学歴を尋ねることは、さほど
重視されないかも、と思ったりする。


しかし大震災後の今は、“絆”が見直されている。
よって「お生まれはどちらですか」が依然として
幅をきかすのではないだろうか。
そしてそのことに相変わらず、親近感を持ったりするのだ。



花はハマボウです(万博公園にて)