笑うに笑えない話し 第三話(まんじゅうバス・他)

今日は、「まんじゅうバス」「暴走暴言タクシー」だ。
ちょっと長いけれど一緒に締めたい。
驚くべき実態に改めて度肝をぬくことだろう。


今回が転載の最終日であるから、
筆者、近藤大介氏のプロフィールを紹介する。
1965年生まれ。東京大学卒業後講談社に入社。
週刊現代などの副編集長を経て、
現在講談社(北京)文化有限公司副総経理(副社長)


以下全文転載


<まんじゅうバス>

5月にオフィスが移転し、私は地下鉄通勤からバス通勤に替わった。
これで「通勤地獄」(本物の地獄だ!)から逃れられると思いきや、甘かった。
私が乗り始めた1路バスには、朝バス停へ行くと、
数百人が群れをなして待ち構えている。


もちろん、誰一人整列などしていない。
そして2台分を1台に「改装した」ロングバスが到着すると、
数百人が中央部のドアに突撃する。
バスはバス停の前後20mくらいの不特定の位置に停車するので
機敏なダッシュが必要だ。
そして、地下鉄1号線同様のタックルが始まる。
車掌が「一人ずつ乗れ!」「次のバスを待て!」などと叫ぶが、
次のバスがいつ来るかという保証がないので、人々は無限に突進していく。


私は一度ならず、前方の老人の背中を引き剥がして
乗り込んだ若者を見たことがある。
バスの場合、恐いのは、ドアに人や物を挟んだまま
発進してしまうことがあることだ。
私も先日、カバンと右手が挟まれたまま発進してしまい、
次の停留所まで生きた心地がしなかった。
またネクタイは首を絞められて危ないので、バス停で外すことにしている。


運よくバスに乗車できたとしても、超ラッシュの中、
急停車や急発進は日常茶飯事なので、冷房なしの淀んだ空気とも
相俟って、吐き気を催してくる。
そして次の停留所で降りる客が車内で「暴れる」のは、地下鉄と同じだ。


さらに1路バスの場合、ラッシュ緩和策として、
当局が二つの対応策を講じたが、これが完全に裏目に出ている。
一つは快速バス(約四つ毎ののバス停に停車)の導入で、
もう一つは、途中終着バスの導入である。
私の場合、五つ目のバス停で降りるのだが、
快速バスに乗ると、二つ目と六つ目にしか停まらない。


また途中終着バスに乗ると、三つ目で終点だ。
だから「途中終着でない鈍行バス」に乗る必要があるのだが、
これが何の表示もない! 


つまり毎回、車掌に大声を出して、「鈍行か快速か?」
「途中終着かそうでないか?」を確認せねばならないのだ。
しかもこの問答を、上記の凄まじい混乱の中でやらねばならない。
間違って快速バスに乗ってしまったことや、
途中終着バスに乗り三つ目の終点で降ろされてしまったことも、
一度や二度ではない。


この1路バスはまた、計12車線の北京最大の目抜き通り
「長安街」を走っているにもかかわらず、ハプニングの連続だ。
先日は信号機が故障して、1時間以上、赤信号が青信号に
替わらず立ち往生した。


痺れを切らした乗客の一人が携帯電話で110番通報し、
ようやく交通警官が現れた。
5月にも朝のラッシュ時に意味不明のまま、やはり1時間以上、
カンヅメにされたことがあった。
この時は北京駅へ向かう金正日がそばを通過したことが
原因だったと、後になって知った。



<暴走暴言タクシー>


もう一つ、タクシーのひどさも付け加えておきたい。
北京市には約7万台のタクシーが走っているが、
初乗り10元(約120円)と格安なため、市民は日夜、
血眼になってタクシー争奪戦を繰り広げている(日本とは正反対だ)。
この需給バランスの喪失の結果、タクシー運転手の
横暴なことといったらこの上ない。
まったく北京のタクシーの悪口を書き出したら、
それこそ本1冊書けてしまうほどだが、
今回は安全面についてだけ、簡単に触れておこう。


北京の渋滞事情は、おそらく世界最悪なので、
タクシー運転手は、飛ばせる時は無鉄砲に飛ばそうとする。
先日、タクシーで南第三環状線を走ったが、
土曜の早朝のため、たまたま空いていた。
すると運転手は、法定速度時速60㎞のはずなのに、
150㎞近くで飛ばすではないか。
「危ないから速度を落とせ!」と私が後部座席から叫んでも、
「ウルセー!」と返すばかり。


「落とせ!」「ウルセー!」「落とせ!」「ウルセー!」と
何度かやり合った後、ついにタクシーが前方の大型車に
接触し横転、ガードレールに激突して止まった。
私は一瞬、三途の川が見えた気がしたが、
命からがら後部ドアを開けて外へ出たら、
奇跡的に軽い打撲だけで済んだ。
誰かが救急車を呼んで、運転手が運ばれていった。


私はこの時以来、注意しても運転手がスピードを緩めない場合、
後ろから運転手の首を絞めることにした。
そして運転手が怯んだ瞬間、後部ドアを開け、
強制的に停めさせるのだ
(それでもそのまま数百メートル走った運転手もいた!)。


タクシー事故の他にも、地方で頻繁に見かけるのが、
過重積載トラックによる事故だ。2tトラックに5t、6tと平気で積み、
衝突事故を起こしたりしている。
高速鉄道と同様に全国に網の目のように張り巡らせようと
している高速道路も、かなり危険なことになっている。


私は5月に山西省へ行ったが、4日間で3回、
ハイヤーで高速道路を走っていて、間一髪で事故に遭うところだった。


こうして見てくると、今回の高速鉄道事故も、おそらくは人災であろう。
中国は急速にハード(インフラ)を整備していったが、
ソフト(人的教育)が追いついていないことが
各種事故の主な原因なのである。
ソフトの質を上げるには、交通機関の関係者全体の自覚を促す必要がある。
そして自覚を植え付ける最良の方法は、
ハード面だけでなくソフト面についても、
先進国をよく視察し、学ぶことだろう。



以上
本当に笑うに笑えない・・・。
これでこの話は完結である。


ひまわり・テディベア