人生案内『孫の働く意欲を奪った上司』

新聞社の担当者が受け狙いで作文したような
「悩みの相談」を読んで驚いている。
それともこの寸劇はいまの時代を反映し、
世間では当たり前のことなのだろうか。


それは過日のY紙の「人生案内」に
『孫の働く意欲を奪った上司』と題した相談である。
70歳代の女性は、今年就職した孫のことに
ついて問うているのであるが・・・


彼女の弁によると、孫は明るい性格でよく気がつき
優しくまじめな好青年に育った。
大学時代は、バイトもよくがんばり、友人も多くできた。
就職先も自分の希望する会社に決まり、期待に胸膨らませて
勤務地に赴任した。


ところが赴任地の上司は、孫がこれまで対応したことのない性格の人で
何事につけぐじぐじと言い、人を馬鹿にする態度で接する。
そのせいで孫は、わずか1週間で働く意欲をなくしてしまった。


やる気満々の若い芽を摘んでしまう上司のことを
会社の人事に話すべきだろうか。
大切なわが家の跡取りだ。
せっかく職に就いた若者の味方になってのご回答を・・
ということである。


えっ?
相談者の年齢を見てびっくりし、いま流行りの
モンスターペアレンツ」ではないかと思った。


「子どもが担任とそりが合わないので、校長に通告したほうがいいか」と
いうそれに似ている。
子どものあらゆる不都合を他者のせいにし、それを己の意に沿うように
改めさせようとする考え方だ。
しかもこの場合の相談者は若い世代の親ではなく、70歳代なのだ。


確かに可愛い孫が就職先で苦労する姿は、想像するのも辛い。
何とかしてあげたい、なんとかならないものかと悩む。
わたしもわが家の潤平が社会人になり、会社で
同じようなことを味わったら、心を痛めるだろう。
孫は子ども以上に可愛い。
余計な苦労はさせたくない、と思う。


しかし、学校のそれと似たような次元で解決を図ろうと
する近視眼的な思考方法に疑問を感ずる。


70代と言えばそれなりの人生経験をした年代でもある。
生きることの厳しさや、仕事のなかでの理不尽などは
承知しているはずである。


それにも拘わらず、安易に解決しようとする短略的な考え方に驚く。
そもそも良い悪いは別として、その孫が入社する以前から、
その会社は存在し、その上司もそれなりの年数を勤務してきたはずである。
それに対し、昨日今日入社した若造の祖母が、上司が悪いと
会社に告げ口をしようというのだ。


青年が苦難に遭ったとき、その起因を取り除く手助けをする行為が
いい方策だとは思えない。
どうしたらそれを乗り越えることができるかと、
じっくり見守り、せめてもの知恵を差し出すことが
親や周囲の役割ではないだろうか。
自分で乗り切る力を育くむ。
人間ひとりが大人になるのは大変な忍耐がいる。
余計な口出しはせず、温かく見守ることこそ必要ではないかと思うのだ。


回答者の山田昌弘氏は、その相談について・・・


よくできたお孫さんが心配という気持ちはわかるが
世間では理不尽と思えることが起きるのが常だ。
今までバイト先や学校でもいい人に恵まれてきても
世の中には自分勝手なひともいて、彼らは何らかの理由で
生き残っている。


心身に異常をきたすほどでない限りは、異動があるまでの辛抱だと思い
理不尽さに耐える修行期間だと思うしかない。
愚痴を聞いてあげたりしてサポートして欲しい。
くれぐれも人事に話すことはしないように、と結んでいる。


さすがに正鵠を射た回答ですっきりした。
これを読まれた皆さまは、どのように感じただろうか。



写真はコムラサキシキブ