気ぜわしいときに・・・

暮れも押し迫ったいまごろ、健康診断を受けに行くアホも、そういまい。
申し込むのが遅くなり、このような、ていたらくになってしまった。


企業が行う「組合健保」の集団検診は昔からいやだった。
長い列を作り順番に健診を受ける。
仕事の合間に会社の一室で受けるそれは、人数も多く
あわただしく、朝から落ち着かなかったものである。
今から思えば、高い検査を存分に無料で受けさせてくれるのだから
ありがたい制度だと感謝せねばならない。


退職前10年ほどは、職種を変えた関係で「協会健保」に移行した。
医療機関は自分で好きなところを好きな日程で選べる。
わたしは、ホテルに併設されている「半日ドック健診」を受けていて
毎年、気候のいい初秋を選んで申し込んでいた。
私立病院は、シティホテルのフロアーを借り切っているところが多い。
「軽食つき」も、わたしにとっては病院選びの魅力になる。


健診が終わったあと、眺望のいいラウンジで薫り高いコーヒーと
焼きたてのクロワッサンが供される。
腹ぺこ状態のおなかには、いっそうおいしく感じられ
これが目当ての受診だといってもいい。


パノラマの下界を眺めながら雑誌などに目を通していると
担当の看護士が「○○さまぁ〜」と甘い声で一人ひとり名前を呼び、
ていねいに部屋まで案内してくれる。
着脱もホテル仕様のクローゼットの感覚で、
BGMが流れる室内でゆったりと検査に向き合う。
健診というより、エステで気分転換を図っているような気分だ。
ちょっぴりVIP感覚を味わえるから、皆このコースを選んでいるのだろうか。


かくして、この優雅なホテルでのドック健診は、わたしの退職とともに姿を消した。
1年ほどは国保で市の健診をうけていたのだが、昨年から息子の扶養家族になった。
息子たちは、共働きである。
子どももいないし、別居はしているが扶養にしてもらったのだ。
扶養家族になった今、息子の健保組合の家族の集団検診を受けることになる。
またぞろ、また列を作ってのコンベアー健診である。
一年に一度のことだから、ありがたく従おうと思いつつ
億劫さが先にたち、先送りしてしまった格好だ。


健診会場までは電車とバスを乗り継ぎ、また別な路線に乗り換える。
寒いときに待ったりするのはいやだなぁと思っていると
「送り迎えしてあげるよ〜」と、息子がいう。
たまには、親孝行らしきこともしてくれるらしい。
たまたま、その億劫な健診会場のことを電話で話していると
年末までに有給の消化を、ということで休みを取っているらしかった。


その日の健診は100人もいなかったのではないか。
意外に少なく、長蛇の列で並ぶこともなくスイスイと終えることができた。
予定よりずっと早く終わり、帰りも会場に迎えに来てくれた息子に
家まで送られ、楽ちんである。
やっぱり、持つべきは息子だ(^_^.)


健康診断の受け方もずいぶん変わってきた。
今の環境に甘んじ、ありがたく受けよう。
遠いからとか、列を成すのがいやだと、わがままばかり
言っておれない年代になった。
ありがとう、息子よ。


余談だが、NHKの「カーネーション」を見ているか?と息子が訊く。
「見ている」と答えると、珍しいなぁと言いながら
「あの主人公の糸子ちゃん、ヨメさんの友達のお姉ちゃんなんやぁ」
その友達の結婚式にヨメが行ったとき、
「糸子ちゃんに会った」といっていた。
なるほど、どおりで慣れた「泉州弁」を使うと思った。
意外と世間は狭い・・・