『過去と他人は変えられない』

という言葉がある。
失った過去は取り戻せないし
他人も変えることはできない。
しかし、自らは変わることができる。



ラジオのパーソナリティを聴いていて心を揺さぶられた。
中年女性が、ある男性に大きな感化を受け、立ち直った話しである。


その女性は小学生のころだったかに母親を亡くし
父はほどなく若い女性と再婚。
思春期の真っただ中にいた女性は、新しい母を受け入れられず
孤独を感じ、中学のころから家出を繰り返すようになった。
年齢をごまかし、キャパクラと呼ばれるようなところで働くようになる。


異性関係が乱れ、男からは金銭の搾取や暴力など受け
心身ともに休まることがない。
わずかに良心の呵責もあり、救いを求めるように
わが家へ帰っても、歳より若造りをした継母と
でれでれと言いなりになる父親の姿に幻滅し、また家を出る。
そのことの繰り返しだ。


それでも心のなかでは「このままではいけない」
「だれか、わたしを助けて・・・」と必死の思いがある。


こころの隙間を埋めるように、数知れない男性と関係を持つようになった。
知り合った男たちは、ヒモのように彼女にまとわりつき
稼ぎが悪いと殴る、蹴るの、乱暴を働く。


そんなことを繰り返しながらも、立ち直りたい一心で
やっと健全に働く場所をみつけた。


そこで知り合ったのが、父親より年齢の高いKさんである。
元国語の教師である彼は、彼女を心底いとおしみ、
娘のように可愛がってくれる。
もちろん健全な間柄である。


Kさんは、彼女に俳句の作り方を教えてくれ
何度も彼女は挑戦し句を作るが、少しも褒めてはくれない。


あるとき、亡くなった母親のこと思い出し
切なさを句にしたためると、初めてKさんは
上手になった!と褒めてくれた。
その句をある新聞に投稿してくれ、入選すると
我がことのように喜んでくれたそうである。


そのKさんは、交通事故に遭い
あっけなくこの世を去ってしまった。
手には新聞の切り抜きが握られていたそうである。


やっと人間らしくなれたのに・・・
彼女の悲嘆は大きい。


やがて新聞に掲載された彼女の句を見た
かつての男が訪れ、お金をせびりに来た。


それまで男の言いなりだった彼女は、きっぱり断った。
殴る蹴るの乱暴を受けたけれど、今度は辞さない。


彼女は変わったのだ・・・
初めて自分の意思で物事を解決した。
Kさんのおかげである。


何年も彼女の心のなかに巣くっていた自虐精神は
見事に影を潜め、立ち直ることができた・・・
という話である。


『過去と他人は変えられない』


過去も他人も変えることはできないが、自らは変わることはできるのだ。


人は、どんな人と出会うかによって生き方が変わることもある。
良くも悪くも感化や影響を受ける。
人との出会いも選択することで、自らを成長させることが
できると感じた女性の話である。