夢のなかで

激しい雷の音で目覚めた。
ベランダの花にも、雨がたたきつけている。
ドッカ〜ンと、耳をつんざく大きな音と、閃光が走る。




どこかへ落ちたのだろうか
地震、カミナリ、火事、おやぢ・・
昔の人はうまいこと言う。
地震も怖いが、雷も恐ろしい。


まだ起きるには早い。
4時前である。
どうせこんな天気だ、朝の散歩は無理だ。
また布団に潜った。


変な夢を見た。
夢のなかでもがいている。
息苦しい・・・。


夢の話しなんて、バカげている。
けれど、わが身の将来を予知しているようで恐ろしい。


かつての職場に復帰していて
お昼休みに知人の見舞いに出かけた。
巨大な病院で、部屋を探してもみつけられない。
訊いても、迷路のようになっていて
たどり着けないのである。


階段を降りたり、上がったりする。
玄関のフロアーには社交場のようにダンスホールがあり
知人たちが着飾って踊っているではないか。
わたしにも仲間に入れと、しきりに誘うが
わたしは、そんなどころではない。


早く目的を達して職場に戻らねばならない。
見舞いの部屋がみつからないので
しかたなく、職場に戻ろうとすると
今度は道に迷い駅にすら、たどりつけない。


え?
どうして?
あせりながら、駅を探すのだが見当たらない。
携帯で職場に連絡を取ろうとしても
ぱっくり二つに割れ、壊れている。
焦る・・・。


いったいわたしはどうしたのか・・・
認知症のひとは道がわからなくなる、と聞いた。
わたしはひょっとして、それではないかと
[夢の中]で思っている。




またカミナリが大きな音で呼ぶ。
ああ〜〜
目覚めて夢だとわかったときの
何とも言えない、いやな気分。
そして安堵の気持ち。


「わたしに道を訊かないで」と自慢して言うほど
方向音痴な、わたしだ。
しかし、こんなに焦ったことはない。
わからなくなる、というのはこんな気持ちなのかと妙に納得した。


昨日の夕方、階下の知人と話していて
知人の母親が、食事を受け付けないほど衰弱している。
いま入院しているけれどまたガンがみつかった。


もう手術など命の危険があるので医者も家族も
しない方向だと、話していた。
90歳になろうとしている母親からは
延命治療はしないでくれと言われているらしい。


そのことを聴きながら、わたしは実母のことを思った。
そして彼女にも話したのだが、母の最期についてはあまり悔いがない。


逝って8年ほどになるが当時としては先見性を持った
医者と出会い、自宅で看取ることにしたのだ。
保健師やケアマネなどプロジェクトを組んで母を看てくれ
いまでもその方たちにも、感謝している。


そのころ、わたしは実母の看護に専念するつもりで
いったん仕事を辞め、郷里に戻っていた。


自宅に帰った母は、半月後に息を引き取ったが
とても満足そうにしていた。
新緑の香る庭に向けてベッドを配置し
好きな花を愛でて心底、嬉しそうだった。


訪れる親戚や近所のひとにもニコニコと礼を言い
枯れ木が朽ちるように、旅立った。
点滴や服薬など一切の治療も医師の指示で、
一切していない。


なるべくなら自宅で看てあげるほうがいいかも・・
などと、病院を敬遠する話しをしていたのだが
そのことが頭に残っていたのか・・・


久しぶりに消毒の匂いを嗅いだ気がした。
堂々巡りでたどり着けない恐怖も味わった。
何かの予兆か・・・
何ともいやな気分の夢だった。


まだカミナリは鳴っている。
雨もたたきつけている。