赤と黄色

『赤と黒』はフランスの革命を舞台にした胸躍らせるスタンダールの長編小説だが、
「赤と黄色」は、わが孫、3歳の年少組の帽子の色である。
なに組だったか、すぐに忘れる。
したがって帽子の色も定かでないといった方がよいのだが。


冷たいお茶がいいのか、熱いお茶を淹れていったほうがいいのか
早朝は肌寒く、迷うほどの晴天の日、孫たちの通う園の運動会があった。



彼ら、わが孫の父親は今年「PTAカイチョウ」の
役が当たっており何かと準備に忙しい。
本部席とやらに座り、ママと一緒の観覧もビデオを回すこともままならない。
おまけに今年は年少組、年長組の二人が通園している。


「保護者と一緒」のプログラムには父母が出場することになり
必然的にばぁばには、第3子「ソウスケ」の子守が回ってきた。
(庄助ではありませんよ( ^^) _U~~)
昨年とは家族がひとり増えた分、何かと勝手が違う。


8時30分に運動会開始で、子ガモのような3歳児集団が先に行進してくる。
わがやの3歳児、かえでは園で身長が一番小さいらしく、
従って先頭でプラカードを持つ役が与えられたようだ。
ママは、「小さい事も、いいことあるわぁ」と喜んでいる。


その子ガモの雄姿を撮そうとママと離れたところでわたしは、カメラを構える。
ソウスケは、ママに抱っこされたままだ。


このカメラは、5年以上前に娘から誕生祝いに贈られた代物で
一所懸命に望遠を伸ばし、「子ガモ」をみつけようとするが、捉えられない。
帽子は黄色だ、プラカードを持っているはずだ・・・。
黄色の先頭の女児をみても「わが家の3歳」らしき姿が、ない。


どうしたのだ?
さては緊張のはてに熱でも出して、急きょ出場できなくなったか・・・
娘に携帯で確かめようかと思っている矢先に行進が迫ってきた。
とにかく、黄色い帽子、黄色帽子の先頭・・・


先に赤い帽子の子ガモの列が進んで来た。
先頭の子はいじらしいほど小さく、プラカードで顔がしっかり隠れている。
それでも膝を直角に曲げ、楽しげで、スキップでもしそうな感じで歩いている。


そして続いて黄色の集団である。
目をさらのように広げて探しても、わが可愛い3歳児は、みつからない!
やっぱり、どこか、救務室で寝かされているのだ。
ああ〜可哀そうに・・・。


開会の挨拶などが終わり、ようやくプログラムが始まるころに
元の席に戻り「かえでは、どうしたん?いなかったね!」
ママに訊ねると「赤い帽子で、ちゃ〜んと一番前を歩いてたやん!」
「え〜〜〜っ、赤?!」
「そうよ、プラカードで顔が隠れてたけど、踊るように歩いてた子よ!」
「あれがお母さんのマゴですよ〜〜♪」
娘があきれたように、言う。


ひゃぁ、なんと言うことか・・・。
ばぁばが懸命に収めようとしていたのは
違うクラスの子どもたちだったのだ!
赤と黄色・・・どこですり替わったのかしらん?
まったくイヤになる。


とまぁ、こんなことを皮切りにハプニングが満載の運動会である。


いろいろある中で「本番に弱い家系」を認めたのは、プログラム最終のリレーである。
わが家の6歳児、潤平は昨年まで一番体格が良くアンカーを務めていた。
今年は後ろから3番前になっている。


それでも始まったリレーは、幼稚園と言えど、迫力満点だ。
年長のクラスリレーで潤平がバトンを受けた時には
遅れを取っていたが、走りの得意な潤平(ばぁばバカですみません)は、
走るフォームもかっこよく、ひとり、また一人と、追い抜いていく。
保護者席から「じゅんぺいク〜ン、がんばれ〜」などの声援も聞こえてくる。


と、群衆注視のなか、とつぜん転んでしまった!
砂埃が、あがっている。
いっせいに「わぁ〜〜〜」というどよめきが起こった。


追い越されてしまったけれど、すっくと起き上がると一目散に全速力で駆け抜けた。
いやぁ、早い!早い!
このあたりで、ばぁばも胸がつぶれそうだった。
遅れを取り戻すには至らなかったが、彼の面目は保たれたようだ。


隣のママをみると顔がグチャグチャに濡れている。
涙と一緒に鼻水も垂れている。
たかが幼稚園のリレーと侮るなかれ。
親は緊張感と感動でいっぱいなのだ。
「潤平、立派だったよ〜」
ばぁばも、心のなかでつぶやく。





[



「父と子の騎馬戦」、「親子での蜜蜂マーヤの障害競走」に続き
運動会の最大の見もの、「年長さんの鼓笛隊」がクライマックスを飾る。


赤いベストと半ズボンの制服に身を包み、さっそうと入場する姿は、
どの子も誇らしげで、凛々しい、輝いている。
入園して3年ほどで、ここまで成長したよなぁ。
どの親も感無量だろう。
ばぁばも、やっぱり胸が詰まる。


マーチングも少し取り入れ、きれいに並んだ列を左右に動きながら、
それぞれに与えられた楽器を音楽に合わせて演奏する。
リズムがきちんと合っていて、うまいこと歩くなぁ。
センセは大変だったろう、ねぎらう気持ちが強くなる。
潤平は「中太鼓」のようである。
大太鼓は、からだがのけぞるほど大きく、歩くのも大変そうであるが
どの子もはにかみながら、汗だくになり晴れ舞台をつとめている。


秋空に太鼓やシンバルの音が鳴り響き、会場は感動の渦に巻き込まれた。
大きな拍手が鳴りやまない。
写真を撮ろうにも、わが胸にしっかりソウスケが張り付いており、手が動かせない。


ママは写真と、泣くことに忙しい。


まったく、小さい園児たちが催してくれるセレモニーには
大判のハンカチが何枚あっても足りない。
潤平、花楓(かえで)、楽しい時間をありがとう。
幼稚園のみんなもおつかれさまぁ。


かえで、今度は帽子の色を間違えないようにするよ。
赤と黄色・・・・どこからすり替わったのか。
わが人生、笑えない失敗だらけである。