食べ方美人

わたしは左利きだ、箸も左で持つ。
3歳ごろに右手を何針か縫うほどの大けがをしている。
箸使いがそれまで右だったのかどうかは知らないが
気がつくとわが家ではひとり、左で箸を持っており
矯正の憂きめに遭っていたが、ついに直らずじまいだ。



昨年描いたリース


成人してからも嫁したときも今でも、ハンディに感じることもあるが
直す気はなく還暦を迎えた今に至っている。
右手、左手が使える両刀使いは、昔から「器用」だと言われている。
果たしてどうだろう。


わたしの場合は鉛筆だけは、かろうじて右で持つよう
訓練したので書くことに関して支障はなく
他の面ではほとんど左手が活躍し、握力も左のほうが強い。


箸使いに多少の劣等意識を持つわたしは、食事の仕方も上手だとは言い難い。
魚を食べる時などあまりの汚さに自分でもイヤになるほどだ。
洋食のフルコースでもパンくずを落とすなど、行儀良くないと感じているから
優美に食事をしている人をみると見とれてしまう。


そんなわたしに、友人が言った。
「食事をきれいに食べる人は、わたしのまわりではあなたぐらいのものよ!」と。
「ええ〜〜っ、そんなことないわ!!」
「わたしなんか、箸使いや食べ方などコンプレックスを感じているぐらいだから
それは、当たらないわ」と、すぐに否定した。


友人曰く・・・
「左で箸を持とうが、食事をするときにそのひとの「人格」が見え隠れするのよ」
「お姫様みたいな食べ方だと思うわ、スマートで品を感じるもの・・・」
ぎゃっ、わたしを知っている知人たちが聞いたらさぞや、ずっこけるだろう。
生まれて初めてこんなことを言われ、くすぐったいことこのうえない。


友人とは20年近く仕事を通してのつきあいがあり
わたしの素性に熟知しているせいか言いたい放題を言う仲でもある。


そんな彼女とわたしに、共通の友人「T」がいる。
Tと彼女のつきあいはわたしより浅い。
Tは、わたしたちより一世代年長だが
その「Tの食べ方が気になる」と言うのだ。


「ぺちゃぺちゃ、音を立てて食べる・・・
歯ぐきをみせて、おしゃべりしながら食べるから
口から食べものがこぼれるし、いやだわぁ・・・」と言うではないか。


確かにTが音を立てて食べることは今に始まったことではない。
わたしも同じように感じていた。
でもおいしそうに食べているから別にいいんじゃないぐらいの気持ちでいたら
彼女は気になるようである。


Tは幼いころ裕福な家で育ったということが自慢で
おしゃれにも「食」にも自負心があるようなのだ。
したがって、自分の食べ方がまわりの顰蹙を買っていることなど
夢にも思っていないだろう。


どんな食べ方をしようと本人が感じていなければ
それは、それでいいではないかと思う一方で、
食べ方にそのひとの品性が現れるとなれば
やはり、意識してきれいに食す方法を
今さらではあるが、助言したほうがいいのだろうかと考えてしまう。



映画「ローマの休日」のなかでアン王女がキュートで
気品のある食べ方をしていて見惚れる。


物を噛むとき、奥歯でゆっくりと縦方向に噛み、
唇を閉じて「モグモグ」と言っているように食べる。


この食べ方を意識するとクチャクチャと食べる不快な音がたたなくなり、
口の中に入っているものがこぼれにくくなるというポイントがあるそうなのだ。
前歯でチョコチョコ小刻みに噛むと、ガツガツ慌ただしく食べている
ハムスターのようになってしまうので、気をつけようということらしい。


食べ方に関しては、それぞれ考え方や意識の違いがある。


昨今、バラエティ番組などで「食す」場面が臆面もなく出てきて
戸惑うが、本来食べることは粘膜を使うことであり食事の
場面を映すことはタブーとされていた。
(皇居での晩さん会の放映など一切ありません)
そのような意識がいまの若い世代にあるやなしや・・・。


背筋を伸ばし「優美な食べ方美人」を目指したいものだけれど、
今さら遅い気もしている。