日経新聞に連載されていた作家の渡辺淳一氏の「私の履歴書」が終了した。
とてもおもしろく毎回楽しみにしていたので終わってしまうと、寂しい。
「私の履歴書」は、各界著名人のそれまでの事績や功績とともに、
そこに至る経緯や苦労話が聞かれて、その人となりがわかり親近感を持つ。
なかには自慢話が多くて辟易することもあるが、たいがいは胸を打つ内容が多い。
渡辺淳一氏は元整形外科医で、知る人ぞ知る「男との女の愛」の
極知を描く作家である。
先日も齢80にして「恋愛をしなさい」と某テレビ局に出演し喧伝していた。
その風貌や表情の生き生きしていること。
氏にとって老いや、恋愛の賞味期限はないのかも知れない。
日経紙に連載していた「失楽園」や「愛の流刑地」などは大好評であったらしい。
わたしもそのころ、わが家で日経を取っていないときで、
職場で競うようにして読んだものだ。
それらが単行本になり映画になり、一世を風靡した感もある。
渡辺淳一の初期の作品はすべて読んだと言っていい。
整形外科医としての体験から臨床と患者との交流を描いたものが多く
清廉な感じがして好きだった。
「死に化粧」で文壇デビューし作家の仲間入りをしたのち「光と影」で
直木賞を受賞している。
受賞作は、西南戦争に題材をとったもので、2人の将校を担当した医師が
ふとした思いから治療法を変えてみる。
その影響で2人のその後の人生が大きく変わったことを描いたものである。
迫力があり今も読み返してみたいと思う作品である。
この小説は夫が生存中に文庫を求めてきて、わたしにも読むよう進めたものだ。
野口英夫の一生を描いた「遠き落日」や「花埋み」「無影燈」「阿寒に果つ」
「冬の花火」など、夫とともに貪るように読んだ。
氏の初期の作品は生前の夫との読書の思い出にもつながる。
しかし、前述した失楽園あたりから、男女の生々しい性の描写が
多くなり、夫は興ざめし彼の作品から遠ざかった。
わたしは興味津津でそれらを読み漁ったものだがいつしか
関心がなくなり別な作家へと移行している。
今回、渡辺氏の履歴書を読んではっきりしたことは、これまでの小説の
題材の多くが自身の体験、すなわち自分の幾多の恋愛を元にして
描かれたものであるということだ。
ほとんどのエッセイなり小説にはモデルが介在することは
当り前だがこれほど多くの様々な女性との愛や、トラブルや生々しい愛憎が
氏のなかで蠢き、生きてきて、書いてきたということも驚きだ。
それらの体験がある限り、小説のリアリティを高め、膨らませていけると
自負していて、氏は常識人ではなく、作家になっていることを
自ら実感し納得していると最後に結んでいる。
「私の履歴書」と言うより恋愛遍歴の開示に重きを置いたような
書き方にさすがだなぁと唸った。
本当におもしろかった。