NHKドラマ『おしん』から

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最近ひょんなことから、BSで再々放送されている『おしん』を

見るようになった。

降りしきる雪と、根雪に囲まれた寒村の風景が心を捉え、ナレーションの

重々しい語り口に、現代では表現できないドラマの厚みを感じたからだ。

 

 一世を風靡したこのドラマは、山形の奥深い山村で生まれた主人公が、

幼児のころに奉公に出され、そののち事業を収めて大成する物語で、

明治から昭和にかけての『おしん』の生涯を描いている。

 

昭和50年代末にNHKの制作で初めて放映されて大変な人気を博し、

中国はもとより東南アジアから欧州やアフリカでも放送され、多大な

反響があったとか。

そのころに、このドラマを見ていたか、見なかったか・・・

おぼろげながら結末は知っている。

 

 『おしん』誕生のきっかけは原作者・橋田壽賀子の元に寄せられた一通の

匿名の手紙であったという。

「ある明治生まれの女性が、人に言えない過去を病床で綴ったものでした。

子守り  奉公したり、“女郎屋”に売られたりね」と。

 

 このドラマは高視聴率を得た一方で、厳密には過疎地の

商品化ではないのかという見解もあったようである。

またスーパーマーケット「ヤオハン」を興した和田カツをモデルにしたと

いう説もあるが、このテレビドラマの筋立ては必ずしもヤオハンの

創業過程をなぞったものではないらしい。
橋田壽賀子談によると、幼少期の苦労や創業時当時の行商などは

和田カツではなく、ダイエーの創業者中内功をモデルにしているらしい。

 

 ドラマのなかでは特に、親子の絆、嫁しゅうとめとの絆にこころを打たれる。

貧乏であるがゆえに父親や長男に冷たくされながらも必死で子どもをかばい、

しゅうとめを守る母親の信念に、涙腺が緩む。

失礼ながらあの泉ピン子があんなに慈悲的な母親役をやっていたとは、驚きだ。

 

 当時の極貧の生活の中で、口減らしのために、製紙工場に女工として

働きに出された姉。

年端もいかない『おしん』が奉公に出るなど、今ではそのような時代が

あったことさえ記憶する人は少ない。

 

 一つ目の奉公先を逃げ出したあと、元陸軍の脱走兵に助けられ、

文字を習い初めて詩に触れる。

二つ目の奉公先では、女主人に読み書きそろばんや茶・華道を教え込まれる。

辛酸を舐めた日々のなか、二人の無学な姉妹が高尚な男と出会い

先見性のある生き方に触れている点が見逃せない。

 

 あらゆる時代にも、男女問わず人との出会いや縁は、その人の人生に

大きな変革をもたらす。

『おしん』が大きなスーパーまで興し得たことは、幼少期に出会った

「機縁」が大きい。

その意味では二人に「徳分」が具わっていたのかと思う。

 

 1年かけて放映されたというこのドラマを、どのあたりまで見るか

思案しているが、含蓄に富んだ内容なので楽しみにしている。

 

 そうした折、知人から『成功した経営者の経験や境遇』という、

20年ほど前に記した紙片をもらった。

それによると、成功した経営者の伝記には、共通する経験や

境遇が存在すると、ジョナスの副社長、金子順一氏(当時)が指摘する。                                           

こうしたあり方は、経営者に限らず万人に求められる資質では

ないだろうかと思い、転記することにした。

 

1. 貧困、落第、謝金、失業、大病、戦争、肉親や異性との別離や

  軋轢を経験している。

 

2. 他人を頼りにせず、自らを頼りにして生きている。

 

3. 自分の幸運を信じきっている。

 

4. 人の喜怒哀楽、嫉妬、怨念をよく理解し、認識している。

 

5. 金の恐ろしさと、金の頼もしさとを共に熟知している。

 

6. 遊びを通じて時流を知り、時流に乗り、人との出会いを生かしている。

 

7. 何事も捨てるものは捨て、集中し、先ず行動している。

 

8. やる気満々、兎にかく欲が深い。

 

9. 災いを福に転じることができ、変幻自在。

 

10. 矛盾した問題を有りのままに認め、それらを同時に解決している。

 

 さららにその紙片には、渋沢榮一の自伝と評伝を総括して、

成功する実業人の要因としては、次の四項が不可欠である』という。

これらの要因が適切に連関して相乗効果を果たすなら成功が期待できる

とある。

 

1.意思。(自らの哲学や人生)

 

2.時代。(自ら生きる社会が、自らの能力に完全に一致するという意味)

 

3.人間関係。(実業への協力者、応援者との出会い)

 

4.内容。(実業として取り上げた対象商品の社会的価値)

 

 この紙片に書かれていることは、物語とはいえ大成した『おしん』の

生き方に相通ずるものがあったように感じる。

わたしは、特に2番目の「自らを頼りにして生きる」と、6番目の

「遊びを通じて時流を知り、時流に乗り、人との出会いを生かしている」が

心に響く。