何のことは、ない

 

先日「断捨離」なるものをして本の分類と処分を試みた。

思いきって粗大ごみに出した本もあるが

まだ分類半ばでどうしたものか、と思案中のものもあって

なかなか、すっきり!とまではいかない。

 

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作品展出品「奈良の2月堂へ続く土塀」

 

 

いま、作品展の準備でやるべきことが、いろいろあるような?気がして

落ち着かないのに、このようなときに限ってまったく別なことに

気を取られ、他のことをやってみたくなる我が習性(――〆)

まるで試験勉強をほっぽらかして、遊び呆ける子どものようである。

なにやってるんだか・・・?

 

そんななか、書店のカバーをしたままの(これが多いのだが)

カバーをはずすと見慣れない著者名の本が出て来た。

「んん?・・・こんな本読んだかなぁ」

年を経るとこんな曖昧なことの連続である。

 

ページをめくった形跡もないほどで、まっさらだ。

1997年に刊行されている。

それにしても記憶がない・・・。

 

よくよく見ると・・・思い出した!

近所に住む知人、Kの著書だ。

夫が埴輪の作陶家であり、自らも陶芸教室を営んでいる彼女とは

出身地が近いこともあり、プライベートなことまで話す間柄で

飾らない温かみのある人柄に好感を持っている。

 

そんなKが第18回読売「ヒューマン・ドキュメンタリー」大賞のなかの

「カネボウスペシャル」入選を果たし、4人の受賞者の共著の形で

Y新聞から発行されている。

美白化粧品ですっかり信用を失くしたカネボウは、当時

こんな素敵なことに協賛していたのだ。

 

入選を知らされ、さっそく書店まで買いに行ったことは覚えている。

だが、肝心の内容をさっぱり覚えていない・・・。

 

入賞作の3篇までがテレビ化され反響を呼んだようだ。

彼女の作品は「やつらーこれからの時代をいきてゆく息子たちへ」と

題して、田んぼに生息する害虫の「タニシ」と、農家に生きる

封建的な家族の形態を絡ませ、土着と環境汚染につなげた奥深い内容のものだ。

10年以上経たいま、読み返してもぐんと胸に迫る

先見性のある濃いストーリーである。

 

残念ながら題材の難しさから、この作品に関してのみ

テレビ化はされなかったという。

 

なぜ彼女の作品に記憶がなかったかというと・・・

誠に申し訳ないことに、そのとき、さほど「土着」や

「タニシが及ぼす環境汚染」に関心がなかったため

途中で読むのを止めた・・ことにある。

 

他の作品も、同じように目を通していない。

だから書店のカバーをはずしたときに記憶がなかったのだ。

 

遅ればせながら全編、いま読んでみても、おもしろい。

 

大賞を受賞した作者は昭和7年生まれで介護福祉士であるらしく

「付添い人のうた」と題した、当時は家政婦紹介所からの

派遣で「付添い人」として雇われ、病院や個人宅で世話をしていた。

死にゆくひとの介護を冷徹に、温かく綴っている。

 

介護現場での介護者と介護される側の心理や現状を

感情を抑え、淡々と綴りながら作者の人間性も見える。

素晴らしい文章である。

 

映像化されたときに女優の竹下景子が主演したようだが

わたしは、それも見ていない。

 

Kの作品が世に出るまで彼女の、居場所のない辛い家族の

環境は聞いており、ほんとによくやっているなぁと心底思ったものだ。

親に反対された結婚、夫が陶芸で身を立てることにも反対した義父母。

勘当が解かれ、夫婦で親の住む地に舞い戻って来てからの

旧いしきたりの土地柄と、親との確執が、義父と田を

守ることで少しずつ距離が縮まっていく。

見事な描写である。

どうしてあのときに、読まなかったのか悔やまれる。

 

散歩コースの途中にある陶芸教室と夫の窯を、一度だけ覗いた。

Kの近況を知りたかったためだが、別居しているようで

ツレない返事が戻って来た。

信州の、夫と彼女の出身大学の地に、息子さんが同じように通い

住んでいて、そちらにKはいると、教えてくれた。

長いこと、会っていない。

 

才能豊かな彼女のことだ。

どこかで「表現者」として生きているだろうことは予測できる。

 

図らずも、本の「断捨離」を行うことで新たに出会ったKの内面。

本を捨てる、ということの罪をちょっぴり感じた断捨離である。

 

あれこれページをめくっては、他の本も検証?しているから

相変わらず本の山に囲まれている。

何のことはない、大見栄切ったばかりでちっとも進んではいないのだ。