「わたしの家はどこですか」アルツハイマーの終わらない旅

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原題は”Show Me The Way To GoHome”

「自分の家までどうやって帰ったらいいかわからない」だ。

題名からして具体的で、ある種の切なさを感じさせる。

 

54歳でアルツハイマー病にかかったひとりのアメリカ人

ラリー・ローズ氏が(1937年生まれ)、残された精神的能力を

奮い立たせ自己の内面を探りながら、そして感じた自分の周りの

世界を小説風に綴ったのがこの本だと言う。

 

この手の著書は介護者や医師や関係者が記したものは多い。

わたしもこれまで少しは読んで来た。

しかし本人自らがテープや、配偶者の言を得て

薄れていく記憶を基に綴ったというのは初めてだ。

アルツハイマー本人の内面を知る貴重な内容とも言える。

 

ブログ仲間の風香さんが、同じくアルツハイマー病が主題で

映画にもなった「君に読む物語」と、併記して記されていた。

「君に読む物語」は、読んでいないが、映画の方は

DVDも含め数回、観た。

何度見ても胸を打つ。

そして、疑問でいっぱいになるのだ。

あれほど行動的で知性あふれる主人公がどうして

この病にかかるのだろうか、と。

 

かつてこの病は、インテリ層にはないと言われていた。

レーガン元大統領やサッチャー元首相などの既往歴をみると

そんなことは関係ないようである。

だれでもなり得る病だ。

だからいっそう、恐ろしい。

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からだの病気は切れば治る、ある種のガンは治療も容易だ。

手術でたいていの病気は治る。

でも心の病はどうやって治すか・・・

アルツハイマー病治療薬は、まだ正式に認可されていない。

治験薬も副作用が多い。

 

ひとたびアルツハイマーと診断されると、ベッドに横たわり

口をポカンと開けたまま、そこが療養所だとも、別の場所だとも

わからずにいる患者たちを想像してしまう、という。

 

原因が何なのか、どうやったら阻止できるのか、まったくわからない。

病原菌が息をするときの空気に、飲み水に、入っているのだろうか。

数えきれないほど多くの病気は、こうしたところに直接の原因が

潜んでいるともされる。

遺伝性のものか、だとしたら子どもたちへの影響は?

 

疑問だらけの問題に著者は、対峙しようとしている。

パートナーに支えられ、近隣の仲間にも救いを求め

それでも逃げないで模索し、自己との対決を図ろうとしている。

訳者のパーソナリティもあるのだろうが

自然体で優しい文章で綴られた葛藤と苦しみが伝わってくる。

けれど、読む者を時間の経過とともに病の底しれぬ恐怖へと誘う。

 

認知症予備軍、800万人。

今日、この一瞬をどう生きようか・・・

ラリー・ローズ氏に教えられた。