何やら秘密めいた館みたいだが、何のことはない。
イタリアンレストランのことだ。
今は名称が少し変更になり「別人」となっているが
この呼称も、おもしろい。
このレストランで、かつての仕事仲間とランチを共にした。
ささやかな宴である。
退職前、団体職に就いていたときに机を並べていた二人である。
3人揃って会うことは、めったにない。
どんどん人件費を削られ、ついに週2日勤務となったと嘆いている。
「主人が退職して毎日家にいるのでしんどいわ~~」
夫の退職で妻がうつ病になる話に進展し
同じ家のなかで距離を置いて暮らさないとなどと
一人暮らしのわたしたちは、のんきにアドバイスする。
しがみついていられることを喜んでもいた。
モノは考えようだ。
もうひとりの人と顔を見合わせた。
早々に引退して家に引っ込んでいるわたしたちと大違いだぁと
認識したものである。
本業の傍ら、わが事務局の繁忙期にアルバイトで来てもらっていた。
相談所も死ぬまでできるからと、仕事ができる今を有り難いとにこやかに話す。
あのパワーと行動力には恐れ入る。
2年ほど前に乳がんが再発し、同じ時期に甲状腺がんを併発。
そしてPET検査で新たに腰のあたりに腫瘍がみつかったと言っていた。
さすがに告知された時は、ショックを受けたようだが
驚くことに副作用がないらしい。
完治ではないが医者が、びっくりするほどの回復を見せている。
普通の人ならば3つのガンを告知されれば
生きる気力が萎えるところだが、彼女は意に介さない。
「気にしててもしよーがない。なるようにしかならないし!」と
誰にでもあっけらかんと話す。
却って病状のほうが退散しているように感じられるほどだ。
70歳を目前にし、多少稼ぎもある彼女は車をころがし
温泉や近場の旅行へと日々を謳歌している。
「毎朝30分、お経を挙げているのよ」
彼女が両親の亡きあとを見ている。
「今日一日、生きさせてください、こればかりよ」
「毎日、一日生きたらいいの、あとのことは考えない」と、屈託なく話す。
60代の女3人、たくましく生きている様が見てとれる。
互いの近況報告に、胸を打たれ、泣いたり、笑ったりの
ややこしい時を過ごした。
心の洗濯をした気分である。
秘密めいたこの倶楽部が今日の会話にふさわしい場所に思えた。