大統領の執事の涙

上映中の「大統領の執事の涙」を観た。

原題は、BUTLER = 執事、であるが、これまでも執事を描いた映画は

数々あったが、今回はホワイト・ハウスに勤務する黒人執事の物語である。

 

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この映画は、黒人大統オバマ誕生の頃、ワシントン・ポスト紙に載った

ユージン・アレン氏とその妻が語る“オバマ当選を支えた黒人執事”の記事を

基に脚本が書かれたと、紹介されていた。

監督は黒人のリー・ダニエルズで、黒人の、黒人の目からみた米国史であるという。

 

フォレスト・ウィテカー演じるセシル・ゲインズは綿花農園の

奴隷の子に生まれ、家働きの奴隷から思いやりのある男に拾われて

ボーイの見習いになり、 やがて高級ホテルで働いているところを

認められてホワイト・ハウスに職を得た。

 

ときは1950年代、黒人に理解を示したアイゼンハワー大統領の時代から

1973年ごろまでケネディ大統領や、ジョンソン、ニクソン

レーガン大統領に執事として仕えた。

 

 妻グロリア(オプラ・ウィンフリー)と2人の息子たちのために黙々と働く

セシルは忠実に働くことで仲間だけでなく、大統領やスタッフからも

信頼され、黒人に対する意識を変えていく。

仕事を通して精いっぱいの差別と闘う、というのが彼の信念だ。

 

ところがそんな父親を、白人にへつらう黒人と批判する長男は

反政府活動に身を投じ、次男はベトナム戦争に志願した・・・

 

いつでも偉大な父を持つと、その子どもらの心には

反骨精神が育つものである。

彼の二人の息子たちもその顰に倣うかのように。

長男の公民権運動は数十年を経て実を結び、老いた父は息子に謝罪して

彼のそれまでの生き方を大きく受け容れる。

その一方、二男は星条旗に包まれた棺でのベトナム戦争からの帰還となる。

 

 主演のフォレスト・ウィテカーは、テキサス生まれの52歳。 

1988年の「ハード」でカンヌ国際映画際男優賞受賞、

また2006年の「ラスト・キング・オブ・スコットランド」では

ウガンダの独裁者イディ・アミンを演じ、この演技で第79回アカデミー賞

主演男優賞ゴールデングローブ賞主演男優賞を独占し

アフリカ系アメリカ人としては、史上4人目の俳優となっている。

 口元が上品で親しみのある名優だ。

 

また妻役のオプラ・ウィンフリーの経歴にも、圧倒される。

 

彼女は、アメリカ合衆国の俳優、テレビ番組の司会者兼プロデユーサーであり

億万長者であり、慈善家であることでも知られる。

 

 ウイキや他の情報によると・・・

 

 生い立ちが不幸で養女時代に性的虐待や暴力虐待の経験があり、

親戚中を転々とし、14歳のときに出産している。

しかし少女時代から聡明で勉学に励み、奨学金で州立大学へ、

中西部の地方局でニュース番組のコーナー司会者の座を得る。
そのときに、天性のアドリブを発揮し、ハプニングへの対応、

するどいツッコミなどで人気を得、昼のトークショーを担当。

児童虐待、少年非行、貧困、差別(人種間、ゲイなどを問わず)、

学校・役所の怠慢などを取り上げ主婦目線、低所得者目線での

番組構成で共感を得ていく・・・

 

なるほど・・・

主演のフォレスト・ウィテカーも知的さを感じさせるが

妻役のオプラ・ウィンフリーの演技の幅の広さも、光っている。

煙草の吸い方ひとつ、夫に進言するひと言にもインテリジェンスが感じられる。

あの時代、黒人社会であのように堂々と家族を、また夫を鼓舞することは

珍しいし、そのような迫力ある奥深い演技ができるのも彼女自身の

パーソナリティによるところが多いのではないかと思える。

 

映画はアメリカ史上初の黒人大統領誕生に鑑み

ひとりの執事のそれまでの生き方を表出させている。

白人と黒人の乗るバスが違っていたり、食堂の席に黒人用があり、

公園の水飲み場の水道が分けられているなど、つい、数十年前まで

街中で平然と差別があったことなどウソのように感じられる。

 

 しかし、いまや公的な差別はなくなり、黒人が大統領になったが

そのアメリカは豊かになったのか!

いやいや、貧困や差別は拡大しているように見える。

じり貧状態になってゆく アメリカの危機を、日本が同じように

たどっているようにも思え、ジレンマを感じる。

 

米国は食料も原油・石炭をも輸入しなくて自立可能なのだが、

日本の置かれた状態は、全く異なる。

大統領の執事の涙」は、アメリカの公民権運動の歴史と

魅力的な演技が、執事夫妻のポイントになっていると感じた。

 

また奏でられるシューマン作曲のピアノ協奏曲によって映画は始まり、

全編にクラシック音楽や登場人物の本源的なジャズが

流れていたことも印象的である。