先日「不毛地帯」をテレビで放映していた。
山崎豊子原作を映画化したものだ。
ずいぶん前の作品であるが、映画があることは知らなかった。
午後9時や10時には就寝するわたしも眠い目をこすり
珍しく、11時30分終了まで起きていた。
山崎豊子は、周知のとおり元新聞記者で、社会に巣食う病巣を
鋭いペンであぶり出している作家である。
山崎豊子の著作は「大地の子」や「華麗なる一族」など、どれも息をつかせぬ
思いで、40代のころ貪るように読んだ。
衝撃的でこころにドスンと重い矢を放たれた感を持っ。
「不毛地帯」は、昭和30年代の高度成長に差しかかる頃の
実在の大阪の商社Iと、モデルが瀬島龍三だと言われている。
ロッキード事件に絡む戦闘機の熾烈な闘いがあり、またシベリア抑留時代の
極寒の地での劣悪な環境での強制労働がくまなく描写され
読み進むうちに涙、なみだと、大きな疲れを覚えたほどだ。
映画のなかでは若かかりしころの仲代達也が主人公を演じており
鬼籍に入った田宮次郎を含め錚々たる顔ぶれが揃っている。
主人公の「壱岐」が瀬島氏であり、彼はあれだけの功績を残しながら
周囲には不人気だとされる。
なぜか・・・
かつての陸軍参謀としての矜持とシベリア抑留時代のことを
黙して語らなかったことに起因しているようである。
その瀬島龍三の回顧録も95年に刊行され、関心があったので
求めて、一気に読んだ記憶がある。
陸軍士官学校卒と言えば相当のエリートである。
陸軍本営で参謀として指揮を取り、ソ連で捕虜として
連行されたあとのシベリア抑留のことも詳細に記されている。
瀬島龍三回顧録「幾山河」は、過日の本の断舎離で捨てるほうに分類して
段ボール箱にほおりこんだままになっていた。
久しぶりに引っ張り出した。
気が向いたら再読しようかと思うが果たしてできるかな。
そんなエネルギーはないかも知れないが、捨てるには惜しくなった・・・。
読みたいひとがいらっしゃればお送りしますよ。
余談だが、長崎で原爆の語り部と称する人が修学旅行中の中学生に
暴言を吐かれたことが問題になり、学校側が陳謝している記事を見聞きした。
もちろんあのような中学生の行為は言語道断だ。
しかし物事には常に表裏一体の感があり、ほとんどの場合
根っこの問題や真相は知らないで済まされることが多い。
「表層的なこと」だけで判断し、行動してしまう。
語り部と称する人は、長崎生まれで長崎在住だが、たまたま原爆が
落ちた時は疎開先にいて、被爆していない。
左翼だということが判明し飯のタネであちこちで「講演」の
ように語り部していたと言われる。
本当の戦争体験者や、被爆者は、重い辛い体験を語りたがらない。
それが「普通」だとも思える。
ようやく時代の公証者として推され、重い口を開く、と言った感じではないのか。
「語り部」を語るなんて洒落にもならない。
劣化した人間や社会の縮図を見る思いがある。
それにしても山崎豊子原作の映画「不毛地帯」は、見ごたえがあった。