「あなたの話し方、好きよ」

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半年ぶりに友人と昼食を共にした。

友人と言ってもわたしより、ひとまわり年長である。

彼女とは昨秋開催した作品展を見に来てくれて、以来だ。

たまに会うと積もる話がどっさりあり、食べるよりおしゃべりが忙しい。

 

会話のなかで、彼女がこちらの言葉を度々、訊き返す。

あまり多いので、やっぱり、わたしのしゃべり方がおかしいのだろうかと、

気になり出した。

彼女は言葉をなりわいにする専門家である。

聴き上手で相手のこころをつかむのにも練れている。

そして相手にしっかり寄り添い、豊かな表現力でほつれた糸をほぐす

魔術師のようなひとなのだ。

 

最近わたしは、しゃべりにくさを感じている。

話し方が、もっさりしてきた。

文字どおり口が重くて、しゃべるのが億劫になるほどだ。

立て板に水のごとく淀みなくしゃべれたのは、昔のことで

今は、発音も歯切れもよろしくない。

我れながら、腹が立つ。

 

原因はわかっている。

退職後、いっぺんに数本の歯を抜いてブリッジをかけたせいである。

インプラントを希望していたけれど、そこまでの必要はないとの

医者の判断でそれは、しなくて済んだ。

結果、それが良かったのか悪かったのか・・・。

しかし、話し方にこれほど不都合がでるとは予想もしていなかった。

 

いま大衆の面前でマイクを握ることもないから問題ないが、

おしゃべり好きなわたしには、やっぱり痛い。

徹子の部屋」の黒柳徹子さんも最近、とみに話し方にもたつく感がある。

「あれは、入れ歯が合ってないのよ。」

「1本、歯を換えただけで変わるものよ」と、友人は手厳しい。

内心忸怩たる思いがあるだろうなぁと黒柳徹子さんに同情を禁じ得ない。

 

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ひとしきり、インプラントがいま問題になっていることを挙げ

それをしなかったことを喜んでくれ、そして彼女は、はっきり言った。

「あなたの話し方、好きよ。少しも変わっていないわ」

「あなたのなかで、あなたの話し方が一番好きよ」

多少、早口だけれど、語尾がはっきりしていて、メリハリがあり

とっても魅力があるわ・・・と言ってくれるではないか。

お世辞としても、うれしい。

ならば、どうして再々訊き返すようになったのか。

それは、彼女の側の問題だというのだ。

 

70歳半ばを過ぎ、まだ半分現役で働く彼女も「加齢」には、抗えないらしい。

関西では錚々たるその道の専門の教授のもとに名を連ねボランティア歴も長い。

気力、体力はまだあるつもりでも、聞き取りにくさを感じたり

とっさの判断に時間を要するようになった・・・と、言う。

 

実は彼女は数年前に「多発性脳こうそく」を発症し

直近でも繰り返し、入院をしていたことを、そのとき知った。

 

長くなるので、続きは次回にしよう。

 

とりあえず、わたしの話し方が見苦しくない程度には、

まだ抑えられているようで安心した。

年齢とともに悩みの質も変化する・・・。