蒸し暑い夕方、知人宅を訪れた。
日中の外出なんて道路の照り返しが恐ろしく、できない。
用があるときは、日が陰ったころを見計らって出かけることにしている。
知人も多忙なひとだ。
次の来客を控えていることを承知で訪問したから、
進めるのも断って、玄関先で用を済ませることにした。
彼女の家は、古い。
玄関のタタキに続く2畳の和室に花が生けてあり、旅館のような趣を
感じさせる。
築何十年になるのだろう。
敷地も門から、うっそうとした庭が続いており、300坪ほどあるという。
もちろん一軒家であり、同じ敷地のなかに三軒、古い家屋を抱えている。
あとの二軒は、いま誰も住んでいない。
犬を2匹、庭に放している。
実の父母が相次いで亡くなり、息子が別棟に住んでいたのだが
彼も家を出て、いない。
一人娘も海外に住み、日本に帰ってこの地で一緒に住むことは
ないという。
土地建物を相続したものの、土地を一部売却してしまわないと、
管理できないと、嘆く。
駅から数分の距離で、最近沿線の駅に急行が停まるように
なったから、土地は心配しなくても売れるだろうが
このだだっ広い家に一人は、やはり何かと心細いだろう。
玄関かまちに腰かけて話していると、彼女が氷を浮かべたボールに
アロマの製油を1,2滴落として、手や首を拭いて、と言って差しだした。
精油は、ラベンダーとペパーミントである。
さわやかな甘い香りと、冷たいタオルの感触で、汗がしゅ~と引く。
すごく気持ちがいい!!
氷に浸したタオルを使うと、もう天にも昇る気分だ。
天に昇ったことはないけれど、おそらく見心地な気分は
こういうことを言うのだろう。
アロマの作用もあり、ぜいたくな涼み方である。
「お客さんには、いつもこうしてひと息ついてもらっているのよ」
夏のあいだ、このようなもてなしを受けていたことを忘れていた。
彼女は、この古い屋敷や、日本家屋の風情を活かして
自宅で「アロマサロン」を開業している。
わたしは、髪を染めるヘナを求めに来たのだが、まとめて買うし
2か月に一度のペースで染めるから、そう頻繁に訪れることもない。
アロマの精油の入った氷水は、なかなか今の季節、頼もしい。
わが家も来客があるたびに、そして気分が乗るとラベンダーの
ミストを玄関や、部屋に散らす。
つい最近まで、シニア・ナビのサークルでウォークに参加したとき
「ハーブ」さんに頂いたラベンダーがあった。
こちらも手作りなので混ざり物がない。
純粋にラベンダーから抽出したもので、大事に使っていた。
部屋が清涼な空気に包まれ、来客には好評である。
アロマポットは、もう20年も使い込んでいる。
知人が焼いてくれたものだ。
話しついでにペパーミントをひと瓶、求めた。
純度の高い精油だから香りの素晴らしいこと!
アロマも、デパートなどでも扱っており、最近は認知症予防に
効果があるとかで、急に脚光を浴び出した。
でも、中身はピン切りである。
人工の香りを混ぜたものも少なくないので、求めるときは
注意が必要だと、知人が教えてくれる。
寝苦しい夜、タオルに沁みこませたぺバーミントの香りに
包まれ、眠ることのしあわせを感じている。