機内から見下ろす眼下には、地平線が延々と続いていた。
雲と光が織り成す見事なグラデーションに、天上界ってこんなところなんだろうかと
想像するほど、空の上の景色に見とれた。
座席も、時間も、天候も申し分なかったからだろう。
地図のように盛り上がった森林の合い間には、細く蛇のように曲がりくねった
渓谷や川が見え、積み木のような家々がへばりつくように点在している。
国土の70%を森林が覆っていることを証明するかのようだ。
山林を切り開き、茶色の肌を露にし、また土地の有効利用か,先人の知恵か
緑や若草いろの棚田が美しい牧歌的風景をも映している。
幼な子のようにず~っと顔を窓にくっつけて下界を見ていた。
搭乗回数は数え切れないが、これほどの鮮やかな視界を堪能したのは初めてだ。
日本は、といっても東京までのことだが、緑が多く、美しい。
しかし、羽田に着くころには、海は、それまでの紺碧や群青からは、ほど遠い
茶褐色へと変化していき、少々がっかりした。
横浜で作品展を終え、ミニオフを楽しみ、仕上げは河童橋で有名な
上高地へ行こうと楽しみにしていたけれど、天候不順のため、断念したことは記した。
途中の乗鞍岳温泉で一泊し引き返すことにしたのだ。
賢明な選択だったといえる。
関東は、からりと晴れているのに、少し移動しただけで
雷警報や大雨警報などが出されているなど、狭いようで日本は広い。
居住していることと違い、観光は選べる。
目前まで行っても引き返す勇気も必要だろう。
自分の身を守るのは自分しかないからだ。
蕎麦畑の白い花があちこちに咲いている。
素朴な宿の窓からみた、雨に煙る風景。
それでも道中の山あいを縫うドライブは気持ちがいい。
緑、みどり・・・見ているだけで目が喜ぶ感がある。
道なりには赤く、色づきかけたリンゴが実っており
一個、もぎってかじりたい気分だ。
昔、企業にいたころ悪友たち7人ほどでワゴン車を繰り、信州に
旅したとき、失敬した覚えがある^^(許してね・・・)
リンゴの匂いプンプンで、はっきりした甘酸っぱさを思い出す。
いま、あのときのような芳香のあるリンゴには、お目にかかれない。
女工さんの通った道、という看板もあった。
かの野麦峠である。
長野県松本市にある民宿のような宿に泊まった。
トイレも洗面所も共同で、かつての木賃宿の風情がある部屋は
隣の部屋のわんぱく坊やが歩くと、ミシミシと揺れる。
洗練されたホテルや宿が多い中、このようなところも珍しい^^
同室の女性とは初対面だ。
温泉が大好きで、全国の温泉めぐりをしているといい
同行してくれたBさんとは、サークル仲間であるらしい。
いつも、横浜に来たときは、案内役をしてくださるBさんには
感謝の念も厚く、生きているうちに恩返しをしますから~などと
茶化しているが、本当にありがたいことだと、心底思っている。
道中、冗談を言い合い、、一緒に蕎麦をすすり
アイスクリームをなめ、アクシデントありの異種顔合わせの、面白い旅だった。
ツアーなどと違い、自由がきくのもいい。
小さな宿は、老朽化していたが温泉の質は、良かった。
温泉に関しての鑑識眼は、わたしにはない。
しかし、二人は、さすがに練れていて、嗅ぎ分けているようである。
外はずっと雨。
そして寒い。
予定時間より早く宿に着いても散策できない。
かといって温泉ばかり浸かっていても湯疲れを起こす。
夕食は、山菜の天ぷらや、イワナの塩焼き、馬刺しが有名らしく
たっぷり盛ってあり、なかなかイケた。
上質な温泉と、家庭料理のようなご馳走に、部屋のボロっちさは
帳消しになると言うものである^^
少し早めの就寝にしたが、こんなときスマホやIpadがあれば、少し退屈さが
凌げたかも知れないなどと、物欲のなかったわたしも、初めて感じた。
林真理子の小説「最終便に間に合えば」のタイトルではないが
帰りの飛行機の時間を遅くしていたせいで、ずいぶん長い時間空港で待った。
宿も込みのチケットなので変更は不可。
おかげで、文庫本を2/3ほど読み終えた。
ちょっぴり疲れたが、事故もなく無事、帰還できたことが何よりである。
今年も思い出いっぱいのプチ旅になった。
同行してくださったお二人さん、ありがとう~
追記
このたび、大雨で罹災された方、亡くなられた方へ
お見舞いとご冥福を祈ります。