「今日は、どれにしようかなぁ」
小学3年生の潤平は、わが家での夕食時、戸棚をみて楽しそうに「何か」を選ぶ。
まるでファミレスでジュースバーの飲み物を選択するように。
何かとは、「梅干し」である。
小学3年の彼は梅干しが大好きだ。
もずくやみそ汁など和風を好み大人のような味覚を持っている。
歳を重ねた「おやぢ」のようでもある。
酸っぱいものは何でも好きで、5歳になる妹も
2歳の弟も、ポン酢系のものには目がないが
さすがに梅干しにはまだ舌が届かないようである。
わが家には、いま四種類の梅干しがある。
実姉や知人・友人から頂いたものが多く梅干しといえど味も酸っぱさも違う。
素材は梅だけなのに、それぞれの家庭の好みがあるのがおもしろい。
きれいな紫いろのシソがしっかり沁み込み、いかにも梅干しだぁと
思わせるものから、ちょっとお茶うけにしたい上品な
甘いものまで揃っている。
甘い梅干しは、ショッピングセンターのガラガラポンの抽選で
当たった、天然の紀州梅干しである。
大きさも形も整い、色も肌色で薄く
デパートなどでは人気なのではないだろうか。
いかにも食をそそる感があるが、わたしはあまり好きではない。
梅干しらしい味がない。
やっぱり適度に酸っぱいほうがいい。
数年前までは、わが家も梅干しを作っていたけれど最近はズボラしている。
娘もときどき漬けているようだが梅ジュースのほうが多い。
梅干しを物色しながら、彼がご執心なのは実姉手製のものだ。
姉は毎年、丹念に梅を洗いシソをもみ紫も鮮やかな梅干しを漬ける。
マメさでは、母の味を一番継いでいるように思える。
「小3のおやぢ」が、紀州の立派な梅に見向きもしないのはなぜか。
嗅覚で天然のものを選別しているように見えるのは
ばぁばの欲目というものだろう。
「ボク、あつい~お茶がすきやねん」
ついこのあいだまで、麦茶などを好んでいたのに
いっぱしに、熱いお茶を要望するようにもなった。
しかもたまに上等のお茶っぱを使うと
「うまいなぁ~~」と、いかにもおいしそうにのたまわう。
まったくおやぢ、ここにありだ、恐れ入るよ。