佐藤愛子 作家

一顰一笑(いっぴんいっしょう)

読書から

この数年、大正から昭和の初期にかけての著書を読むことが多い。

 

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若いころは新進作家や、似たような世代の軽い読み物を乱読していたが
昨今の改行ばかり多い、スカスカの若い作家のそれなど、
物足りなく感じるようになった。

 

以前にも触れたが山口瞳北杜夫宮尾登美子などの
小説などがおもしろくてたまらない。
今は佐藤愛子に嵌っている。

 

山口瞳の「血族」、北杜夫の「楡家の人々」は、言うまでもないが
自身の出自や家族の生き方をえぐりだしている。
小説家というのはここまで、家族をも巻き込み、裸にして傷口を見せないと
成り立たない商売なのかと因果を気の毒に思うほどである。

 

宮尾登美子は女性の自立を主眼に力強く生きる女性を描いたものも多い。
歌舞伎俳優を支えた「きのね」や
画家・上村松園「序の舞」、茶の湯の地味だが
深い懊悩と生き方を描いた「松風の家」など
凛として背筋が伸びる感がある。

 

佐藤愛子」の迫力ある火の塊みたいな原動力、
ルーツはどこから来るのだろう?思っていた。
規範をはずれる社会状況に対して苦々しくモノ申さずには
おれない性分のようである。
激情型でいつも怒っているようにみえる著作も歯切れがよく、好きだ。

 

憤怒の激しい性格は、父親ゆずりだと彼女は、エッセイなどで綴っている。
父の「佐藤紅録」や、兄「サトウハチロー」との関わりを知りたいとも思っていた。
「血脈」は、その家族のルーツをあまつところなく
綴っておりまさに「一顰一笑」である。
笑ったり、ほろりときたり早くはやくページを繰りたいと思わせる。
歯に衣着せない、佐藤愛子独特のこわもて?の表現が胸をすく。

 

父親の「佐藤こうろく」の息子4人が全員「不良息子」で
あることは知られている。
どの程度の不良だったのか興味津津だったが
それは想像をはるかに超えていた!
その尋常ではない彼らの素行には、心底驚いた。

 

特にサトウハチローの私生活には、仰天する。
抒情的な詩を生んだ本人だとは、とても思えない。
特に女性に対する品行のなさには父の生き方が
反映されているのか。

 

佐藤紅緑は女優上がりの若い女(佐藤愛子の母)を妻にして
先妻と四人の息子を捨ててしまった。
 佐藤紅緑が最初の妻を捨てたあと、子どもたちは
養育する能力のない母の元から、それぞれ親戚などに預けられ、
父母の愛情を知らずに育つ。

 

捨てられた四人の息子は、長男のサトウハチローを筆頭に
相次いで「不良少年」になり、次々にトラブルを起こし、父親を悩ませる。

 

息子たちが大人になっても佐藤紅緑は彼らの犯した
不始末の尻ぬぐいと借金の返済に追われ続ける。
サトウハチローのすぐ下の弟(次男)は、
結婚後も父親から仕送りを受け、父が末弟の生活資金にと
送った多額の金を使い込み、小心者の末弟を自殺に追い込んでいる。

 

またサトウハチローも、三人の息子にはほとほと手を焼いている(らしい)。
まだそこまで読んでいない。

 

佐藤愛子の男運も悪い。
男を見る目がなかったのかと思うほどの波乱に満ちている。
最初の夫が麻薬中毒なら次の夫は借財魔で、
その穴埋めのため彼女は必死になって稼ぐ。

 

社会的に成功した佐藤紅緑サトウハチロー佐藤愛子の周りに
よくもまあ、これだけの「ロクデナシ」がそろったものだと感心するが、
作者はその原因を佐藤家の「血脈」に求めている(ようだ)。
(他の作品で知ったことだが)
佐藤紅緑が残した遺伝子のためだというのだが、どうなのだろう。

 

ページを繰るごとに脳天を突き破る一顰一笑だ。
はやく完読したい。

秋桜 (id:mursakisikibu6年前

 

佐藤愛子の著書を読み返してみたくなった