ブンヤさん登場!


万博公園に咲くルピナス


K子の婚活④


I氏は、年の頃70歳近い。
背も175センチほどあり白髪頭であるが年齢より、若くみえる。
ファッションの街神戸に住んでいるせいか、奥さまの趣味なのか
服装は明るい色を好み、お洒落だ。


彼は業界紙の社長である。
S新聞の記者を経て業界紙を立ち上げ、かつてのわたしの
職場である事務局に出入りしていた。
近くの事務所から取材に訪れるが毎回の駐車料金がバカにならないので
自転車に乗り鼻に汗をにじませ、やってくるのである。


この社長氏は、無類の話し好き。
何しろ大勢の職員が仕事しているので、話す相手にはこと欠かない。
あちこちのシマ?を渡りながら、情報を仕入れたり原稿をもらったり、
委員会や会議の打ち合わせなどで話し込む。


スタッフが淹れてくれるお茶をおいしそうにすすりながら
よもやま話しの取材に余念がない。


ひと通り仕事を終えると、決まったようにわたしの机の横か前に陣取る。
嬉しそうに2歳になるお孫ちゃんの写真を引っ張り出し、
「子ども服は高いなぁ」服やお人形を買ってあげた話を嬉しそうに語る。
時事に関することや、株で損したこと、儲けたことなど話しは尽きない。
わたしも話をすることが嫌いではない。


いっしょに時の政権を批判するなど口角泡飛ばし、話し込んでしまう。
この世代のひととの交流は、迫力があり聞いていておもしろい!
おまけに、わたしの前後に彼と似たような世代のオヤブンたちが控えている。


彼は一見、好々爺に見えるオジサマであるがさすがに文章の切り口鮮やかで、
その記事に関することになると益々、饒舌さが増す。
知性を感じさせ魅力的でもある。
彼が来るといつも仕事の手が止まってしまう。
二重まぶたの垂れたところや大きな体つきは、
亡くなった俳優の藤田まことさんに、よく似ている。


その社長氏に突然、不幸が訪れた。
最愛の奥さまが急逝されたのだ。
心筋梗塞だったということで悔やみの言葉もみつからない。
氏は、ひとり神戸の宅に残された。


奥さまと仲の良かった近隣の夫妻が、いろいろ心配してくれて
毎日仕事から帰るとお惣菜が届くのだと、半分嬉しく半分迷惑そうに話していた。
お酒が好きな彼は、帰宅の途につくまでに一杯やりたいタイプ。
そちらで夕食も済ませたりすることが多く、おかずが余って仕方がない、
食べると肥える、とぼやく。


そんな、日常の細々したことを話し、さっぱりした表情で帰っていく。
それでもやっぱり、夜帰ってから暗い家に入るのは寂しいだろうなぁと
わたしは思う。


それでひらめいた!
S氏を振った例のK子を社長氏に紹介してはどうかと。
まだ逝去されて間もないし不謹慎かなとも思ったが、
人品卑しからず、来歴も人間性もだいたい、わかっている。


女性を騙したり、泣かせたりするタイプではなさそうである。
人を紹介するには、それなりの覚悟がいるけれど彼ならば安心だ。
どことなく女好きな感じも否めない。
飲み屋さんなどではオカミサンに、もてるタイプではないかと想像したりする。


一計を講じたわたしは、さっそく資格マニアの友人に相談した。
大きな声では言えないが彼女の本職は「結婚相談所」である。


さっそくそのことを話してみると
「うわ〜いいんじゃない!」
「わたしも彼なら悪くないと思うわ〜」などと、わが身を照らし関心を寄せる。
彼女は離婚、再婚、3回の立派な経歴の持ち主でもある。
以前わたしの事務局に会計や雑務のアルバイトにきてくれた
関係で氏をよく知っている。


K子にこの社長氏のことを話すと、まんざらでもなさそうで乗り気である。
S氏と別れたあと、ヒマをもてあまし夜になるとひとり車を飛ばし
ゴルフの打ちっぱなしや、カラオケに通っていたようだ。


わたしからすると、どうしてじっくり家で本を読んだり
名画のビデオを鑑賞したりしないのかと不思議に思うぐらい、
外へ出て行くのが好きなようだ。
まあ、ひとそれぞれ歩んできた道は違うし、
長いあいだ夫にほっとかれた後遺症のせいなのだろう。
夜になると人恋しくて仕方がないらしい。
 

K子の承諾のあとさっそく画像をメールで送ってもらう。
S氏のときに利用したときのものであるらしい。
普段より一段と妖艶に写っている。
それを事務局のわたしのパソコンに転送した。


翌日いつものように柔和な顔でやってきたブンヤさんを手招きし
パソコンの彼女の画像を見せ、訊いて見た。
「おつきあいしてみる気、ありません?」
とたんにブンヤさんの顔がパァーっと輝いた。
嬉しそうである。


何しろ彼からすると相手は10歳も年下である。
しかもオバサン臭くない。
いくばくかの知性も感じさせている。


実際彼女は、会社勤務も無く社会経験は少ない。
しかしそれなりの物知りで、欧米的なモノの考え方をしている。
訓練される場がない割には表現力も豊かで知性を感じさせる。
世界文学全集を中学、高校のころに読破したと言っていたから
読書好きでもあったらしい。
いまは目が疲れるとかで(それ、本当?)
そのようなことを聞かない。


二人の日程を繰り、わたしの退社時間のあと、
事務局オフィスのビル横にあるホテルで彼らを引き合わすことにした。
果たしてこのお見合い、どうなったか。