うしろ姿に惚れた

上映中の、高倉健主演「あなたへ」を観た。
亡き妻の絵手紙「散骨はわたしの故郷へ」という遺言を尊重し
富山から九州・長崎の平戸まで遺骨を積み、車で向かう。





「どうしてNPOに?託したのか。生きている間にどうして言ってくれなかった?」
始終、猜疑心との闘いだった主人公は、道中、様々な人との出会いを通じ、
亡き妻の想いをしっかり受け止めるようになる。



いまどき、このように偶然出会ったひとと
熱い交流ができるのかと思うほどの素朴さがある。
自称・「高校の国語教師」のビートたけしとの出会いは
彼にふさわしい?といったら怒られそうなオチつきである。


主演の高倉健の実年齢は、知らない。
久しぶりに彼の大写しの映像をみた。
口元にもたくさんのシワが増え、痩せた体躯に哀愁が漂い
しっかり、老年の域である。
労働者風に演出したのか、やたらに茶褐色のゴツゴツの手が印象に残る。



淡々と飄々と、相変わらず寡黙である。
何も言わなくても、立っているだけで、座っているだけで
重厚な存在感は、ますます大きくなっていく。


歩く姿がかっこいい!
ピンと伸びた背筋もさることながら、歩き方にもオーバーだけど哲学を感じる。
踵から着地して、ひざをまっすぐ伸ばす歩き方、
さりげないけれど、やっぱり絵になる。
背を丸め、トボトボだったら、映画にならないか( 一一)


うしろ姿に惚れるなぁ・・・
「いくつになってもお尻の厚みがあるほうがいいね〜」
「・・であってもやっぱり鯛だよね〜」
「なかなか、そんなかっこいいと思える男はいないのよね!」
わが身を棚にあげ、同じく初老?の友人たちと勝手なことを言い合う。



監督が「大人の映画を作りたい」と言うだけあり静かにゆっくり、物語は進む。


高倉健の妻役の田中裕子の初々しいこと。
幼女のようである。
さわやかな色気がある。
質素な身なりで、清廉な生き方が感じられるような役柄。
彼女にぴったりではないか。


最初は、あまりゆっくりの進展なので
退屈に思わないでもなかったが
一つひとつのエピソードに散りばめられた
人間関係にこころが揺さぶられる。
そして、最後にあっと言わせるオチが・・・
このあたりで、ほろりと涙せずにはおれない。



観た後、ふわぁ〜と余韻が残る映画である。
甘い砂糖菓子とサイダーを口に含んだような
優しい心持にさせる物語だ。