大雨の夕方、ギャング一行が、やってきた。
ギャングたちの親分は(ママ)アルバイト先の送別会に
出席したいらしく、孫守りをとつぜん頼んできた。
バレーボールの試合を翌日に控えており、ついでに泊まらせてぇと、甘えたこともいう。
「しゃあないなぁ~」
最近は、ていよく娘にこき使われている!と舌打ちしたい気持ちも
無くは、ないが、内心、悪くはない。
少しもったいをつけて、ニコニコと仏さんのような面持ちで応じた。
玄関先まで車をつけ、雨のなかをエントランスに入るや
「ママは?」
2歳のチビスケが訊く。
「ママはお出かけよ~」
答えると
「いやだぁ~、いやだぁ~」
珍しく大きな声で駄々をこね、一歩も動こうとしない。
ムムム・・・。
今日はゴキゲン悪いなぁ、
「いやだぁ~」という東京弁のような言葉を初めて聞いた!
いつ覚えたんや?
どこで仕入れた?
大粒の涙を落として、ごねるチビを前に、のんきなことを考えている。
5歳と8歳も弟をなだめすかし、ようやくエレベータまで引っ張っていくと
エレベーターのなかでも世界中に轟くような大きな声で泣き喚く。
まったく、こんなことは珍しい。
よほど虫の居所が悪いらしい。
エレベーターから、3軒を通り越し、ばぁばの玄関を見つけると勝手知ったる我が家だ。
いつも、うれしそうに「ココ!」と、得意満面で指をさし、いの一番に入ると
くつを脱ぐのも、もどかしく、奥の部屋に突進するのだが
またも、ここで足を踏ん張り、動こうとしない。
まるでワンちゃんが散歩の途中で足を踏ん張っているかのようだ。
「いやだぁ~いやだぁ~」
覚えたて言葉をせっせと使い、大粒の涙をこぼし、意思を表明する。
まったく・・・
今日からチビスケ改名、「いやだぁくん」にしようか。
それともゴンタくんにしようか。
ワンちゃんの名みたいで、ママに怒られるか・・・?
それでもゴンタの奴め、部屋に入るとさっきまでの大泣きがウソのように
ニコニコと、遊び始めた。
皆、めいめい、リュックに遊び道具を詰めて来ている。
8歳はこのときとばかりゲームに熱中したい。
家では時間をきっちり制限され、ばぁばのところだと怒られないからと安心している。
5歳は、着せ替え人形だの、絵本だの、ぬいぐるみのペロちゃんだの
どっさり、背負ってきた。
2歳のゴンタは、ばぁばとこに置いてある、お気に入りのままごとや、
積み木を引っ張り出している。
数字に関心を持ち始め、しきりに、にぃ~、ごぉ~とか言いながら
模った木のおもちゃにご執心だ。
8歳や5歳が小さいころに遊んだものばかりだ。
「ご飯も食べさせているし、お風呂も入っているから~」とママに聞いていたから
あとは、寝るだけだ・・・と、思っていると・・・
「いこっ!」
ゴンタが、ままごとのカップ類を抱え、風呂場へとばぁばの手をいざなう。
コーヒーカップやスプーンや皿などのおもちゃを湯船の中に入れ
遊ぶのが好きなのだ。
「えっ、今日は、もうお風呂に入ったから、入らないよ~」と、なだめると
「いやだぁ~いやだぁ~~」
また、いやだぁ~が始まった。
まったく「いやだぁ~」は、2歳のゴンタにとって便利な魔法の言葉らしい。
味をしめ、言葉と行動で抵抗する。
ちっ。
まったく泣く子には、適わないヨ。
ばぁばは、しもべになるしかない。
夜10時ごろになると、ばぁばは、眠たくて仕方ない。
5歳や8歳は学校や幼稚園が休みの前は、のんびりしている。
ばぁばは、いつも早く寝ているし、彼らが来ると生活のリズムが乱れる^^
部屋の電気を落とし3つの布団を並べ、いざ寝ようとすると・・・
「パンマンみるぅ~」
ゲオで借りてきたらしい「アンパンマン」が、見たいとゴンタが言い出した。
「もうネンネの時間やからあしたにしよ!」なだめるも
「いやだぁ~いやだぁ~~」
またまた、いやだぁ~作戦が開始されたのだ。
かくして・・・
暗い部屋で背中を丸め、ひとり「パンマン」に見入っているゴンタを
想像して欲しい。
まったく、ばぁばもにぃにもねぇねも、気になって眠るどころではない。
何話か収録されたものを、適当なところで切った。
ゴンタの怒ること、すさまじい。
それでも知らん顔して3人は寝たふりを決める。
いつのまにか、ごねることに疲れたゴンタも、やがてコトンと
静かな寝息を立て始めた。
「ばんこっこ、はるぅ~」と、小さなゆびを差し出してバンソウコウを
ねだった手を、ばぁばのわき腹にくっつけて寝ている。
やれやれ、わがやのゴンタ王子のご就寝だ。
おやすみ~~~♪
小さなチビスケの反抗期は、始まったばかりだ。