「孤掌鳴らし難し(こしょうならしがたし)」


知人の伴侶が、急逝した。
哀しみの渦中にある知人には、かける言葉もみつからないが
嘆きはそれだけではない。


知人の夫は、ある病の発症から1ヶ月ほどで急逝した。
まったく予期していなかったことである。
まさか夫が先に逝くなどとは、妻も家族も考えてもみなかった。


妻は、結婚当初から難病を患っていて
子どもは奇跡的2人授かったものの入退院を繰り返し
激しい徒労感と副作用のために寿命をまっとうすることは
難しいと親族の誰もが思っていた。


そのような妻の病気を懸念してか
夫は家計のすべてを握り、妻には給与の額や
預金など何ひとつ知らせず切り盛りしていた。
妻もそのことを当たり前のように受け止めて
格別不満も持っていなかったようである。


夫の急逝により、まず先に葬儀にかかる費用を出さないといけない。
通帳からカードまで探さないといけない始末で
悲しみに浸る時間などないぐらい狼狽する。
大学に通う二人の子どもがあきれるほどだったという。


夫婦のあり方というのは多様で、他人様には
うかがい知れないこともある。
妻である知人の思いを察するばかりである。


このようなことは、逆の場合にも当てはまる。
最愛の妻を失い、遺された夫が
それらを任せ切りで残された者がやはり困るということ。



逝去ののち半年ほどがたち、ようやく落ち着きを
取り戻した彼女は、こちらの心配をよそに意外に早く
元気を取り戻したように見える。


夫の在職中の逝去であるから、退職金や、保険金などが
振り込まれ生活の心配はなさそうである。
「いまだに通帳や印鑑がみつからないのがあるのよ」それでも
いまは亡くなった夫に感謝しているワ、と彼女。
とつぜんの逝去は、経済的なことも含めて
当たり前だが諸々憂いを残す。



人の寿命なんてものは、わからない。
彼女の場合も、自分が先に逝くとばかり思っていた。
歳の順番とおりに逝くとは限らない。


遺された者が困らないよう、生きているうちに
金銭的なことも含めてしっかり「申し送り?」を
しておく必要がありそうである。



孤掌鳴らし難し (こしょうならしがたし)

一人だけでは、何事もできないことのたとえ。
片方の掌だけでは手を打ち鳴らすことはできないという意味から

―――― 韓非子――――


画像は10月桜です