犬とご主人さま

朝の散歩ではワンちゃん連れと、よく出合う。
顔ぶれは、だいたい決まっている。
飼い主のあとを、よそ見をしながら従順についていく犬や
われ先へと進み、ご主人さまを引っ張っていくワンちゃんもいる。



歩くときの犬が先か、人間が先かで、そのカップル?の
主従関係が見えるというもの。
多くは人間が先に歩き、犬があとをついていくパターンだ。


かつて犬を飼っていた。
わが家の子どもたちが小学校低学年ごろまでの短い期間である。
幼稚園児の息子が拾ってきたのを仕方なく、という感じだった。
白いコグマのようにコロコロとして可愛らしかったが
あまり賢くはなかった。
おまけに散歩が大嫌いときている。
亡き夫がつけた名前は「テス」


外へ連れ出そうにもイヤがって小屋から出ようとしない。
まったく、散歩の嫌いな犬など見たことがない。
無理やり引っ張りだし、近くのレンゲ畑で遊ばせるが、
一目散に、走って帰る始末だ。


今の潤平とかえでより、少し大きい息子たちは
テスの散歩では、毎回おいてけぼりを食っていた。
それでも夜中にクンクン泣くと息子は責任を感じてか
玄関先に入れ眠い目をこすり、面倒をみていたものである。


犬の成長は早い。
丸いコグマも真っ白な長い毛に覆われ、少しは犬らしい面構えになった。
知らない人が通ると垣根越しに吠え、立派に番犬の役目を果たしてくれたものだ。
夫の病気とともに住み慣れた家を売ることにし、集合住宅に越した。
テスは運よく知人に引き取ってもらったが、いまごろ鬼籍に入っているだろう。


息子たちも記憶にあるらしく時々、テスのことが話題になる。
「アカンタレやったなぁ〜」
犬は飼い主に似ると言う。
自分たちのことは棚にあげ、臆面もなく言うのには噴き出してしまう。


わが家のテスと違って、ご主人さまの体力増強に?貢献しているワンちゃんもいる。
散歩のときに見かける「カップル」は、おじぃさんと、やんちゃ犬。
柴犬のように小回りが利き、すばしこさがある。
人間で言うと少年のころか。


この少年犬と老齢さんコンビの散歩は、ほほえましい。
でも、ちっともご主人の言うことをきかないようである。


老齢さんは気の毒に、この暑い時期でさえ、
ヒザまであろうかと思うほどの長いゴム靴を履いている。
若い犬の「水泳」に備えているのである。


水の中が好きな少年犬は、川べりの散歩のとき決まって川に飛び込み
達者な犬かきを披露する。
ご主人さまもアタフタと引っ張られ、水中散歩だ。


川からあがると、ハイスピードで河川敷を走りまわり
気に入ったところでは、足を踏ん張って一歩も動かないしたたかさを見せる。
完全に少年犬に、老齢さんが従う図式のようである。


毎朝、こんなことを繰り返しているご主人さまを気の毒だなぁと思う一方で、このやんちゃ犬が老齢さんの体力向上に、ひと役買っているのだと思えば頼もしい。


ワンちゃんの散歩に出くわす度に
わが家の奥ゆかしい「テス」を思い出す