営業トーク


わが住居は筑20年以上になるマンションである。
バブル期に建てられた分譲は当時、類を見ないほど、
建物も贅を尽くしており、緑が多く、人工の小川や滝の
せせらぎが聞こえる環境は
一種のスティタス感さえあった。


住居の敷地のなかに保育園、デイケア施設(新設)、スポーツ・ジム
内科医、外科医、接骨院まで揃っている。
新築から数年経て手に入れたけれど、分譲当時の価格ではとうてい
わたしには手が届かない物件である。


管理は行き届いていて、外観も見劣りはしない。
それでも年数を経るとあちこち不都合も出てくる。
数年前から棟ごとの大規模改修も済み、いま各部屋のリフォームが
盛んに行われている。
10棟、1,000世帯ほどが住んでいると大きな「リフォーム市場」になる。


メールBOXには毎日のように分厚い封書のリフォームの案内や
DMハガキなどが業者の大小問わず、舞い込む。


ある昼下がり、チャイムが鳴った。
インターホンで用件を訊くと建設関連の営業らしいひとが
「挨拶に来たから玄関まででてください」と命令口調でいう。


挨拶というからには、またどこかで改装工事をやっており
エレベーターや騒音などで不便をかけるから、と粗品を
持って現れたのか、と思うとそうではないようだ。


真っ赤なポロシャツに身を包んだ若い女性は、
名札を首にぶら下げて、業者の名を言う。
どこかの階にモデルルームがあり、そちらを覗いて来れ、
そして名前を知ってほしい(業者の)と、のたまう。


ふーん。
でも、わざわざ見に行かなくても、DMもたくさん来るし
その気になればいくらでも探せるから今は要りません、と言うと
その営業女性、強気でまた、のたまう。
「DMなんかほとんど見ないから、誘いに来たんです!」
「見るか見ないかはこちらが決めます」とわたし。


とにかく今は、必要ないし見に行く気はないからと
断ると、まだおっかぶせる。
「名前を知ってほしいんです」
強硬なセールスである、負けてはいない。
洪水のように押し寄せる業者の名前をいま
知ったところで、関心がなければ意味がない。


たぶん、マニュアルとおりに、断られた場合の
返答集でもなぞっているのだろう。
肝心のお客の気持ちなど、そっちのけで
自分の言い分ばかりを通そうとする。
よくそんなので仕事しているなぁ、と、変な感心をしてしまう。


先日の家電売り場の男性店員といい、この営業女性といい
何か違うのではないか、違和感を覚える。


わたしが言いたいのは、仕事をするからには
それなりの専門知識で相手をうなずかせるぐらいの
プロ意識を養って欲しいということである。


他人のこころに平気で土足で踏み込むような
営業は不愉快であり、逆に社の品位を落とし
お客の反感を買いかねない。
もう少し教育が必要だ、よそごとながらそう思う。

コスモスとアカタテハ