キュートさと、妖艶さと

新年会をかねて友人二人と会った。
わたしより10歳年上、おしゃれ上手である。
着ていく服に悩む。


昨年の今ごろの髪型、今は少し短め。
美容室でちょっぴり整えていざゆかん、写真なし。



春らしいスーツジャケットにしようかと思っていたけれど
結局、寒がりなわたしは、無難なセーターとパンツにした。
少し短めのパンツにセーターと同色のタイツを合わせる。
あと同色のストールで変化をつけただけの、普段着ぽっい服装である。
だんだん不精になっていくのを感じる。


いつもの待ち合わせの場所に行くと、ひとりが待っていた。
果たして、遠くから見ても人目をひく。
あざやかなショッキングピンクの「セーターコート」に身を包んでいる。
ひとしきり、挨拶をすませ彼女がコートを脱ぐと
華やかなニットのアンサンブルと
白いニットのパンタロン風パンツ姿が現れた。
ううむ・・・。派手〜〜!?
適度にふくよかさのある彼女は、どこぞの有閑マダムに見える。
ゲイノージンのような華を感じさせる。


わたしのように、最近家に引っ込んで静かな生活を
送っている身には非常に刺激的!
萎縮してしまいそう・・・。


その彼女、長年百貨店業界で働いており、お洒落には人一倍自信がある。
しかし業界の長引く不況でついに職場が閉鎖され、年末に職を失った。
70歳を越してなお、どこかに職はないだろうか、と訊く。
服が好きなのと、人と関わることが好きらしい。


おしゃべりしていると、もうひとりがやってきた。
こちらは、深紅のバラのような色のベルベットのコートに
似たような素材と色彩のワンピース姿である。
同色のベレー帽が似合っている。
目じりが丸く、笑うとニコニコバッジのような、彼女の笑顔が
人なつこっさを現している。


何気なく足元をみると何とメッシュのストッキングではないか。
黒の蝶とバラをあしらった色っぽい脚が女のわたしの気をそそる。
生活臭ばっちりなわたしは、タイツばかりである。(自慢にならないか・・・)


二人はどこから見ても70歳だなんて思えない。


かくして3人のおしゃべりとランチが始まった。
ベレー帽の彼女は、医師の父と教師の母から継いだ遺産で
子どもはいないけれど、生活の心配なくひとり暮らしを愉しんでいる。
詩吟歴が長く、今でも母親の眠る墓で大きな声で
詩吟を披露しているのだそうだ。
小学生のように、明るく屈託がない。
「75歳まで社交ダンスは続けられたらいいわ」
日課のように教室に通っている。


ショッキングピンクの彼女は、昨年末に息子が結婚し
「これからの生活が大変よ」と言いながら
ようやく訪れた一人の時間を満喫しているようである。


10歳違う彼女たちの生き方は、おもしろい。
学ぶこと多しである。
「若いわねぇ〜」今年還暦を迎えるわたしに相変わらず
若い、若いと誉めそやし、まだまだいろんなことができるわ〜と炊き付ける。
70歳の二人と、60歳にならんとしているわたしに共通しているのは、
寡婦であることと、楽天的なことぐらいだろうか。


ふたりを見ていると世の中の不景気など、どこの世界のことかと
思うほど浮世離れしている感がある。
一方で忍び寄る「老い」への心の準備を感じさせ
あえてそのように意識して生きているのだなぁと、も思える。
「生活を愉しむこと」で自らを奮い立たせているようにも見える。
「愚痴の多い人とは付き合わないの、毒ガスを吐かれるのはいや!」と
鼻息も荒く口を揃えていう二人の言は、的を射ているかも知れない。


70歳を越して、キュートさと色っぽさを感じさせる二人に
「人生の妙」を学んでいる。