佐久間良子・箱入り娘伝

今月1日からのN紙の「私の履歴書」欄は
女優「佐久間良子」が連載されている。


佐久間良子氏は、知的で奥の深い演技が魅力であり
「書」でも名を馳せる素敵な女性で
好きな女優のひとりでもある。


ところが「私の履歴書」を読んで、驚いた。
驚くというよりがっかりした!と言うほうが正しいだろうか。


第1回目の表題は「箱入り娘」
ご自分の出自を披瀝されているなかで、多少の自己肯定は、いい。
人間として当たり前かもしれない。
しかし、本当に彼女が書いたのだろうか?と、
疑問に思うほど自慢話しに終始しているのには、辟易した。
口述でライターが記したのかなぁと思うほどだ。


原文のまま一部、抜粋してみよう・・・



私は39年、東京・練馬の桜台にある裕福な家で生まれた。
父は地元でも有数の大地主の次男。
母は理科教室などに展示する人体模型を日本で初めて開発した
製作所の長女。
いわば良家同士の婚姻であり、私は何不自由なく育った。
高い堀に囲まれた実家の敷地は500坪(役1650平方メートル)ほど
あったろうか。
重い鉄門を開くと緑の芝生が広がり、正面玄関まで
コンクリートの車寄せが続いている。
2階建ての洋館の屋根には青瓦が鮮やかに輝いていた。
子どものころ、私はこの家からほとんど外に出たことがない。
文字通りの「箱入り娘」。
いつも部屋の中で人形遊びやお絵かき、読書などに興じていた。
独りで静かに時間を過ごすのが好きだった・・・



このくだりを読むだけで相当の自己顕示性を感じる。
40代ごろの若いママが母親同士のなかで交わす会話なら
それもあるかなぁと思うが、老境に達せんとする年代で
こうも誇示する必要があるのだろうか。
「ハハァーッ・・、お姫様、」
嫌がおうにもひれ伏さねばならない。
(アホらしい!)


裕福な家、良家同士の婚姻、500坪の敷地云々・・・。
いやぁまいった・・・
己のことは、たとえそれが事実であっても自慢になりそうなことは
半分ぐらいに抑えると嫌味がなくて説得性を増すと思うのだが
のっけから、このようなことを披瀝されると、鼻白んでしまう。


今までにも「森光子」「香川京子」「高峰秀子」など
歴代の名俳優が「私の履歴書」に名を連ねていた。
やっぱり彼らに共通するのは、自己顕示性が強い、ということである。
中身も文章も迫力がなく、面白くなかった。


ある新聞の編集委員をしている芥川某氏は、コラムのなかで
テレビでもラジオでも最近は「俺が、俺が」「私が、私が」の世界で
皆が自己肯定を前面に出す。
自分で自分を持ち上げるような話ばかりがあふれて何だか
異常な世界に入り込んだ気がしてくる・・・と書いていた。
同感である。


佐久間良子のそれも、同じように感じ
自身のことを箱入り娘と言える感性に、興ざめしているわたしがいる。