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明るい離婚

知(痴)人の愛

彼女と3年ぶりに会った。
退職後のある時期に梅田のレストランで食事をしながら
たっぷりおしゃべりに興じたとき以来である。



その彼女からの誘いである。
大阪は梅田の「ヒルトンプラザ・ウエスト」
6階にある素敵なレストランだ。
最近できたのだろうか、初めて訪れる。


店の前で約束の時間に待っていると、華奢な身体に
モノトーンの、ミニのワンピース姿で彼女が現れた。
相変わらず髪をきりっと短くして、大げさに言うと若いころの
ヘップバーンのような雰囲気を持っている。
笑ったときの口元と大きな目が今でも素敵に見える。
どこかの女優さんかと思うほど垢ぬけている。


わたしのまわりには、おしゃれな女性が多いけれど
シニアの域に達してこれほどのファッションセンスを
持ち合わせている人も珍しい。
対するわたしは、あでやかな彼女をまぶしく感じ
おノボリさんのように少し萎縮している・・・。


彼女から電話があったとき「働いている」ことに驚いた。


3年前会ったときに「これから面接に行くのよ」と
言っていたのを思い出した。
そのときからの勤務らしい。


夫はある有名企業勤務である。
二人の娘たちもそれぞれ結婚し、近くに住み
毎土曜日には、二組の夫婦と自分たち夫婦が、
同じように近くに住まいする、彼女の両親のところに集う。
しあわせを絵に描いたような一家団欒物語だ。


始終にこやかな顔で、ずっと働けたらいいのだけれど、と
心底仕事がおもしろいらしく、以前にも増して生き生きとしている。
60歳の定年まで、10年近くある。


モデルハウスの受付勤務に運よく就けた幸運と
仕事の中身などについて、楽しそうに語ってくれる。
そのにこやかな顔で、さりげなく
「わたし、実は離婚したのよ〜」


「へぇ〜〜っ、リコン?」
働いていることにも驚いたけれど
彼女の口から離婚という言葉が出ることも予想外だった。
いったい何があったのか・・・。


夫婦のことは当人同士でないとわからない。
簡単に理由づけることも容易ではないだろう。


次々に運ばれてくる料理を口に運びながら、
わたしは一生懸命、彼女の話に耳を傾ける。
一言では表せないドラマのような離婚の展開を
固唾をのんで訊き、料理を味わうどころではない。
すっかり冷めている。


結局、彼女は「夫に捨てられた」・・と認識している。
しかし、ぜんぜん暗くはない。


ふたりの結婚生活は「喧嘩もしたことがない」というほど
噛み合っておらず、そのことを重要視しなかったことに
起因していると感じているらしい。


突然、離婚を突き付けられ、同意して書類を出すまでに半年かかったが
そのことは、近くに住む両親や娘たちには一切知らせずに
「事後報告」の形をとったのだという。


親も子供たちも知らされたあと、予感していたのか
さほど驚く様子もなかったようである。


いきなり妻の座から放り出されても、生活の手段がない。
「家と現金とどちらがいいか?」と夫に問われ、現金を選び
今は二女夫婦と一緒に住み、娘、孫たちは元夫と自由に会い
行き来しているという。


離婚に至る経過など、見聞きすると疲労困憊やつれ果て、
人相が変わるほどの人をみているだけに
あっけらかんと話す彼女に、度肝を抜かれた。


内心、葛藤やひとに言えない苦悶もあることだろう。
しかし彼女の場合、案外そうでもなさそうだ。
「いま、楽しいわぁ」と
独身生活に戻ったことを晴れやかに伝えてくれる。


おまけにその離婚も3年前に、すでに実行していたというのだ。
ぜんぜん顔に表れていなかった。
ただ、そんなに眼の色変えてどうして今頃
仕事を探しているのだろうかと疑問視したぐらいである。


離婚もいまや珍しくもなく、生活の基盤が満たされると
怖くないようである。


彼女のいまの関心事は、いかに仕事を長く続けられるか。
そのあと人生の伴侶、もしく精神的に支えてくれる異性と
どうしたら巡り合えるか、と言うことが大きいようだ。


明るい離婚もあるものだ・・・
魅力的な彼女の、未来にカンパイ!