桜、さくら、サクラ・・・
あでやかで、儚げな桜の花便りが、あちらこちらで聞かれる。
薄桃色に惹かれて憑かれたように、人間はそぞろ見る。
わたしもそのひとりだ。
昨年、この時期に突風が吹き、いつもの川べりの
さくら並木の大木がバッサリ薙ぎ倒された。
たまたま通りがかると、無造作に切られ、
捨てられている幹と枝に目が留まった。
枝には蕾や八分ほどに開いた桜が山積みになっている。
誰もその捨てられた桜に気がつかないのか、持ち帰った気配がない。
ひゃぁ、喜び勇んでその大きな枝を胸に抱え、家に引き返した。
道行くひとが、不審な視線を投げかけているのを意識しながら。
持ち帰った桜の大木と枝は、とりあえず大きなバケツに活け
リビングの窓際に置いた。
キッチンテーブル、玄関、洗面台・・・
そう広くもないわが家の至るところに、桜の出現である。
朝な夕な、寝そべっていても桜が目に飛び込む。
居ながらにして桜を愉しむことができた。
そして今年、桜の季節を迎えた。
去年は思いがけず、桜を家でもたっぷり愛でることができて良かったなぁ・・・
まぁ、あんなにおいしい思いはそうあるはずがない。
と、思っているとまたその嬉しいことに遭遇したのだ!
わが家の近くの散歩道には二か所、桜並木がある。
昨年とは違う場所でのうれしい出来事だ。
いつものように歩いていると、犬を連れた中年女性とすれ違った。
桜の枝をたっぷり抱えている。
「え~っ!不謹慎な・・・」
勝手に桜を折ったものと思い、いやな感じを持った。
そして、またワンちゃんを連れた女性が前方から歩いてくると
先ほどの女性と同じように満開の桜を胸に抱えているではないか。
「え~っ、またこの人も???・・」
「何ということをするのだ!」
またもや勝手に取ったモノと思い、内心怒りに似たような思いが・・・。
この桜並木は、市の環境課が維持管理していて、
あまり知られていないのか、人が少ない穴場である。
桜の他にも「トサミズキ」「梅」「藤」「ヤマブキ」「ツバキ」など
数えきれないほどの植物が植えられ、人工であるが
小さな小川もあり魅力的な散歩道になっている。
わが家から歩いて数分の、この場所がわたしのお気に入りで
毎日、感謝しながら歩いているのである。
桜の枝を見上げながら歩いていると・・・
何と!!
前方に桜の枝を満載にした軽トラックが止まっており
あたりに花びらが散乱している。
ひゃぁ、どうして?
それでも小さな枝を拾い、ラッキーと思っていると
トラックの作業員らしき男性がこちらを向いて手招きする。
車の近くまでいくと積み上げられた桜の大木と枝を
「どうぞ!」と差し出してくれた。
こちらが、つぼみが多いからということらしい。
ひゃぁ、なんという幸運!
すれ違った女性たちは、この職員からいただいたものとわかった。
わたしも思いもかけず、幸運に巡り合ったのだが
いやぁ、一度あることは二度あるのだ!と、嬉しさ満杯。
しかし、どうして満開の時期に桜を切るのか?と訊くと
隣接しているマンションの裏庭に建物を建てるらしくて、
その持ち主からの依頼だという。
なんと無粋な・・・
金網のフェンス越しに枝が伸びたぐらいで
切らなくとも良さそうなものを、とチクリと思う。
しかしそこは、他人さまの領域だ。
まぁ、そのおかげで今年もじっくり
寝ても覚めても桜の木々と対面することになったのだから
ありがたいのだが・・・。
一度ならずの桜の幸運に興奮したわたしである。