下流の宴

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バイトでフリーターの女の子が、医学部をめざす。

その動機は同棲している彼氏と結婚したいから。

 

女の子は沖縄の離島出身で高卒後、東京で職を探すが

「ちゃんとした職」に就けないでいる。

意識的には上昇志向がたっぷりあり、決して現実の生活に甘んじて

いるわけではない。

 

バイト先で知り合った彼氏は、高校を中退したフリーター

二人は純粋に「愛」しあっている。

若いけれど同棲ではなく真剣に結婚も考えている。

しかし、医者の娘だったという彼氏の母親は「下流、住む世界」が違うと

女の子を見下し、烈しく嫌悪している。

自分の息子も「下流」の世界に身を置いていても

悪いのは息子をそそのかした、彼女だ!と典型的な親バカぶりだ。

 

嫌悪をバネに無謀とも思える「医学部受験」に臨み

猛烈な受験勉強に励む女の子。

果たして結果は・・・?

 

林真理子著「下流の宴」は、いかにも、現代気風にあふれている。

林真理子一流のトレンディな、世相や風俗をさらりと描き

親世代の価値観そのままの、どこの家庭にも

ありそうな中流意識と物語の展開がある。

 

彼氏の母親である主人公が、医者の娘だったということは、

彼女のなかで大きなスティタスになっており

溺愛する息子も当然、医者になるべきだし、そのように育ててきた。

 

しかし、あろうことか、息子は進学校を中退し、ひきこもりのあと

夜の新宿歌舞伎町でバイトを始め、家を出た。

そして彼女と、出会うのである。

 

もちろん、彼は彼女のことを下流だとは思っていなし、

親が願うほどの向学心なども、持ち合わせてはいない。

 

女、男、双方の家族のありようを交互に綴りながら

親自身の生き方、兄弟間の考え方などをあぶり出す。

リアルだ。

 

「下流」の世界を忌み嫌う打算的な男の家とは、

のちに完全に逆転するところがおもしろい。

小説とは言え、胸がすく感がある。

 

また医者の娘を振りかざす彼氏の母親に対し

父親の俯瞰的な考え方が、物語に挿入してあるところも見逃せない。

 

近視眼的なモノの見方をする妻に対して、ダブルフォーカス、つまり

「複眼的」な視点で息子や、華やかな結婚生活に失望した娘を叱咤し、

見守っている点が救われる。

 

ひょんなことから、「下流の宴」を手にしたが共感すること多し、である。

主人公の母にではなく、懸命に生きる女の子に対してである。

そしてその母親の熱血漢な生き方に対してだ。