映画「花のあと」
上映中の「花のあと」は藤沢周平の同名短編小説を原作にした時代劇である。
江戸時代、ひそかに思いを寄せる下級武士の仇討ちを果たすため
自ら剣を手に戦いの場に向かった女性の姿を描いている。
剣を生涯の糧のように打ち込んできた主人公、以登(北川景子)は、
竹刀で立ち合った江口孫四郎(宮尾俊太郎)にほのかな恋心を抱く。
けれど2人にはそれぞれ決まった許婚がいた…。
物語の主軸は以登と自ら命を絶った江口孫四郎であるが
以登の夫となる風采のあがらない男の生き方にもわたしは惚れる。
あの時代において自分という婚約者がいながら
他の男の死んだいきさつを知りたがり、その内定を頼み
それを快く引き受ける。
よく食べ、よくしゃべり豪放磊落そうでニコニコと
以登の願いを利いてやる。
影の薄い存在のように見えるが
最後の後始末もきちんとしてやっているこの男に
人間的な魅力を感じた。
物語とは別の観点からみると
配役がみな若いせいか、演技に少し幼さを感じてしまうのは
こちらが年齢を経ているからか。
主演の北川景子はこの映画のために所作や殺陣など
かなりの訓練を積んだといわれる。
それでも端々に言葉使いや所作にぎこちなさがあるのは否めない。
武家の娘らしい清楚であでやかな着物に身を包み
背筋をしゃんと伸ばし凛とした生き方を演じる
北川景子だが襟元が時々くずれているのは
衣装担当のせいだろうかと気になった。
特に以登の友達を演じていた俳優の現代的な
話し方には違和感とハラハラ感がつきまとう。
江口孫四郎役の男性はバレエダンサーであるらしく
見かけない俳優だと思っていたが今で言う「草食男」で
目元麗しいなかなかの美男子である。
スラリと伸びた手足で演じる殺陣の見事なこと・・
憂いを含んだ表情がなんとも大人びて色っぽさを感じた。
歌舞伎の市川亀治郎が悪役を演じていて
この映画のなかで梨園とバレエという世界から
突出した配役を得ていることに豪華さも感じる。
殺陣の師である以登の父親との抑制された感情表現には
ほのぼのとしたなんともいえない温かさがあり
東北の寒村の降りしきる雪や、桜の舞う季節を
透き通るような音楽で演出し清清しく切なげに終わっていた。
好きずきであるけれど「武士の一分」など他の作品の方が
わたしには見ごたえがあり感極まった感がある。