現実を受け止める

知人は60代半ばの闊達な女性である。
彼女は以前、乳がんを患った。
「乳房温存術」だったと聞いているが、それから10年以上が経ち
以来一度も医者を訪ねたことがない、というほど元気に暮らしていた。


ところが、半年前ぐらいから腰が痛いといって
整形外科や整骨院に通うなどしていた。
社交ダンスやジャズダンスなどを週に4日楽しむ
熱の入れようだったから、その疲れからだろうと
本人も、まわりもそう楽観していたがいっこうに改善しない。


腰痛以外にも「なんとなくからだの調子が良くないのよ」と
いうことで「PET検査」なるものを受けることにしたようだ。


PET検査は、がん細胞が正常細胞に比べて3〜8倍のブドウ糖を取り込む、
という性質を利用して、がん細胞を光らせて発見する仕組らしく
これまでよりずっと早い段階で、がんを発見することができるという。


しかし一方で人間のからだは、毎日数個のがん細胞ができており
自然消滅があるなど、早い段階のがんをみつけることが
果たして良いのかどうか、医師のあいだでも
意見の分かれることもあるらしい。
そして、PET検査は、CT検査、MRI検査を
併用して行うのが効果的らしいのだが・・・。


果たして、知人の結果は・・・


腰痛と認識していた腰から足にかけての痛みは、
乳がんの転移であること
そして乳がんの再発
甲状腺から首の頚がんへの転移ということがわかった。
最先端の検査で幸か不幸か、3つの癌がみつかったのである。
もし、PRT検査を受けていなければ
知らないで済んだ可能性も高い。


腰と足の痛み以外は、とくに自覚症状はなかったというから
忍び足で襲うがんの発症に慄然とする。
本人の心中はいかばかりか・・・。


「なったものは仕方がないわ。今まで12年も乳がんの再発もなく
元気で来られたのだから、それだけでもありがたい」
と、いたって冷静に受け止め、声も明るい。


若ければ、泣いたり取り乱したりするだろうけれど
もう、十分好きなことをやってきたし悔いはないわ、
受け入れるしかないわ、と余裕さえ見せる。


今ホルモン療法の最中であり
それが終わると放射線治療に入るらしい。
「食欲旺盛であれこれ食べたくなり、ステーキも焼き肉も
どんどん食べているのよ!」と屈託がない。
通院治療らしい。


結婚、離婚を3回経験し「もう結婚はしないわ〜」と
一人暮らしを満喫していただけに、支えてもらう伴侶のない身は
どんなに心細いだろうかと案じていた。


そのたくましい言葉が真意なのかどうかわからないが
一生けんめい現実を受け止めようとしている彼女が
愛おしくてならない。


まっすぐに現実を受け止め、楽しくものごとを考えようと
している彼女の生き方は、きっと免疫力が高まり
がんと共存しながらこれからの人生をまっとうできるだろうと思える。
幸いにして娘一家、優しい妹夫婦が近くに住み、心丈夫そうである。


明日は我が身である。
このようなとき、彼女のように受容できるだろうかと、
甚だ心もとない。