「う〜ん、どうしたものか」


「ねぇ、聴いて聞いて!どう思う?」
「美智子が変なのよー」
友人の妙子から電話があったのは昨晩のことである。


妙子とわたしには共通の知人、美智子がいる。
妙子と美智子は共に60代の後半であり、シングルである。
妙子は百貨店で働くバリバリの仕事人。
今だに売り上げ、ナンバーワンを目指す元気人だ。


美智子は夫と死別後、実家に戻っている。
子どもはいない。
軍医であった父が戦死したあと、母親が教師をして彼女たち兄妹を育てた。
親からそれなりの財産を継ぎ、経済的には申し分ない暮らしをしている。
近所には開業医の兄夫婦が住んでおり、一人暮らしの美智子を
見守っているようである。
その美智子はまるで勤めるかのように毎日、社交ダンスに通っている。


妙子と美智子は年齢にたがわずおしゃれを自負していて
仲良く、絵画展やショッピングなどに出かけていく。
そんな中、妙子が息せき気って電話口で話すのには・・・


妙子と美智子が懇意にしている画家の懇親パーティに行くことになり
着ていく服のことなど話しているうちに、会話の中で美智子の
話しぶりが気にかかる・・・というものである。


何が気になるのかというと・・・
同じ話を延々と(以前からその気は少しあったが)繰り返し
あげくが「娘時代に買った服を着たいが肥えてしまって、入らない」という。


いったい、いつの時代の話をしているのか。
あんなにお洒落で、最新モードの服もたくさん持っているのに
どうして50年以上も前の服を着たいというのだろうか、と妙子はいぶかしむ。
靴と帽子とバッグを合わせて求めるほどの彼女が、最近会ったときも
初夏の服装に冬の帽子をかぶっており、靴も頓着していなかった。
何だかチグハグな感じが見受けられた・・というのだ。


「何かおかしくない?」とわたしに訊く。
確かに最近の彼女の長話しには閉口していて、わたしも会うことを避けている。
どうでもいいようなことを自分だけ延々としゃべり、人の話には耳を傾けない。
電話で話すときも、美智子からかけることは、ほとんどなく
たまにあっても用件だけ話すとプチンとすぐ切る。
そのくせ、相手からの電話だとたっぷり自分だけしゃべる。


また、あれだけ帽子にもこだわるひとに、そんなことがあるなど
信じられない気もするがそうであれば、少し妙である。

わたしと妙子が、失礼を承知で思ったのは
認知症?の始まりか、ということである。
近くに医者の兄がいるとはいえ、細かいこのようなことまで察知していないだろう。
どうしたものか・・・妙子の思案は続く。


「食べるものにも気をつけているし、社交ダンスを毎日のようにやっているから
病気などにはならないかも!」と胸を張っていう美智子に
おかしい?とは、口が裂けても言えない二人である。


う〜ん、どうしたものか・・・。