反抗期
携帯の着信音が鳴り、覗くと娘の番号である。
「もしもし・・」と返答しても何も聞こえない。
え?潤平がいたずらしたのかと思っていると
「うっ、うっ・・グ・グググっ・・」と声にならない声が・・
「ばぁば・・うぅ、うっ・・・」と潤平が電話口でしゃくり声をあげている。
「どうしたん?ママに叱られたん?」と聞いても
うっ、うっと泣くばかり。
いったいどうしたのかと、ママに代わってもらい聞くと・・・
「最近、反対のことばかり言うのよね!!」
「ほんとに言うこと聞かないのよ!!」
このあいだ4歳の誕生日を迎えたばかりの潤平が
ことごとく、何にでも「いや」といい、反抗するのに
ママは、辟易している。
さっきも動きまわる潤平が、びっしょり汗をかいているから
着替えようかと言っても「着替えない!」と
逃げ回り、言うことを聞かない。
それでほっとくと、今度はずっとまとわりつき
泣いて「ママ着替えさして〜」らしい。
最初からちゃんと言うこと聞いていれば
何の問題もないのに、いちいち反対ばかりする。
これが気に入らない。
あんまり言うこと聞かないから「お父ちゃんに電話する」と
言うと潤平は「父ちゃんにだけは言わないで〜〜」と
おお泣きするようなのだ。
父親が怖いというより、父親に嫌われたくない思いが強いらしい。
ママは「まったくいやになるわ!」と
本気で4歳を相手に喧嘩している。
泣きながら携帯電話で、助け船求めてきたのが潤平だ。
親に叱られても祖父母との同居であれば、子どもの逃げ道があり
親もそれを承知で怒り、緩和される部分がある。
しかし今のように核家族が普通になった若い世代の
乳幼児を抱えたママは、気持ちの持っていきようがない。
子どもも、親も閉塞状態になってしまう。
伸び伸びと夫婦水入らずで、暮らせる家族も
一方ではこのような面もあり不都合を感じるだろう。
ひとしきり電話口で泣きながら、ばぁばに窮状を訴えていた潤平は、
とにかくママにもパパにも誰にも嫌われたくないのが、本音のようだ。
「ママも、とうちゃんも、かえでも、ばぁばも潤平のことだーいすき!」
「だから、ちゃんとママのいうことも聞こうか」と話すと
納得したように声が明るくなり、「はい」と返事をしている。
子育ての時期は、親も子も大変だ。
子どもが4歳なら母親も親業4年生である。
子どもは、そうそう親のいうことを従順にはきいてくれない。
ましてや、いま第一次反抗期にさしかかったばかりである。
「潤平と同じレベルで喧嘩してどうするの」
「子どもはいうことを聞かなくて当たり前、親の顔色をみて
従順ばっかりだったら、よほどそっちのほうが心配!」と話すと
ママも冷静さを取り戻したのか神妙に聞いている。
育児に自信をなくし自己嫌悪に陥るのだそうである。
いい母親ではないんじゃないか、と自分を責める。
みんな親は、そうよ。
模索しながら子どもを育てている。
育児書通りにはいかない。
子どもは手がかかるのが当たり前、叱ったりほめたり
同じようにママも泣きたくなるようなことにたくさん遭遇する。
とにかく子育ては一筋なわではいかない。
怒りたくなったら、ひと呼吸おいて・・・
ちょっとコーヒー飲んだり甘いものをつまんだりして
気をそらすようにしたらどう?
そうすると感情的に怒ることもなく、
きちんと叱ることができるから・・
子育ての経験を交えてばぁば、ママに助言する。
ちょっと風穴をあけてやるだけで気分が変わるものだ。
「だいぶ、気持ちが楽になったわ」
潤平が泣いて電話したのは、結局ママの手助けになったようである。
潤平、いつでも何かあったら電話をしてきたらいい。
ばぁばは、いつも潤平の味方だよ。